【日々怪談】2021年3月17日の怖い話~ 落とす物
【今日は何の日?】3月17日:緑の日
落とす物
一番古い記憶では幼稚園の頃。
「麻里奈ちゃん、これポケットから落としたわよ」
迎えにきた母親のところへ行こうとしていたところ、ひまわり組の先生が、そう呼び止めた。
「はいコレ」
先生から差し出されたのはプラスチックでできた、小さな蛙のキーホルダーが付いた鍵だった。
見たこともない物だ。
「先生、あたし、それ知らない」
「でも、ズボンのポケットから落ちたのよ」
「あたしのじゃない」
次が中学生の頃。
友達とカラオケボックスで遊んだ後、レジで会計をしていたとき。
「お客様方、コレが部屋に落ちてましたけど」
部屋の清掃をするために入ったのであろう店員が、レジまでそう伝えに戻ってきた。
見ると、〈コレ〉は蛙が付いた鍵だった。
友人達と顔を見合わせた結果、
「私達じゃないです」
と皆で返答した。
そして、ごく最近。
仕事の帰り道で
「鍵落としましたよ」
と背後から見知らぬ者に声を掛けられた。
「はい」
と振り返り様、微笑みかける男の指に、緑色のものが掛かっていることに気が付いた。
〈ああ、まただ……〉
麻里奈さんは、いつもコレを受け取ってはいけない、という気分になるそうだ。
――「落とす物」高田公太『恐怖箱 百舌』より