【日々怪談】2021年3月23日の怖い話~ The Rain Song
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The Rain Song
ある天気のいい日のドライブでの話。
カーラジオからはツェッペリンの「The Song Remains The Same(永遠の詩)」が流れていた。
伝説的ハードロックバンド、Led Zeppellin。
一九七三年三月にリリースされた、ジミー・ペイジのプロデュースによるツェッペリン五枚目のアルバム「Houses Of The Holy(聖なる館)」の冒頭に入っている曲だ。
メロディを鼻歌で追っていると、ハンドルを握っていた勝又がぼそりと言った。
「おまえ、ツェッペリン好きか?」
「うん。特に、この次の曲とかな。なんつったっけ」
「雨の歌、だわな」
勝又は直球なことを言った。
「The Rain Songだろ? だから、雨の歌。あれ聴くと雨が降るんだわ」
「オマエ、それ直球すぎ!」
「ホントだって!」
勝又は怒気を孕んだ声で言った。どうやら、あまり信じてもらえない話題らしい。
「みんなそうやって最初は信じねえんだよな」
勝又は車を路肩に寄せると、ダッシュボードをかき回してCDを一枚取りだした。
「今からやってやる。いいか、ほれ。確認しろ」
渡されたCDのラベルには「聖なる館」、とある。二曲目には「The Rain Song」。
フロントガラスから空を見あげると、およそ雲ひとつない青空が広がっている。
「おまえ……これはいくらなんでもムリだろ。晴れすぎ」
「いいから試せ」
言われるままに、CDプレーヤーにCDを押し込んだ。
最初の曲を飛ばして、二曲目から再生。
サビに入るあたりで、にわかに空がかき曇る。
――ぽつん。
一コーラス目が終わる頃、フロントガラスに雨粒が落ちた。
小降りではあるが、確かに雨が降った。
驚いていると、勝又は得意満面といった顔で言った。
「な?」
「な、って……偶然だろ?」
「まあ、そう言うんだ。誰でも最初は」
CDを止めると雨は止んだ。
「夏なんか土砂降りの夕立を呼ぶんだわ。これが」
――「 The Rain Song 」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』より