【日々怪談】2021年5月5日の怖い話~大人になれなかった
【今日は何の日?】5月5日:こどもの日
大人になれなかった
小学二年の夏。
向井さんは、家の中に見知らぬ子供がいることに気付いた。
自分よりも幼くて、身体も小さい。
「あの子、誰?」
指差しながら、家族に問う。
「どんな子だい? 婆に教えてごらん」
祖母が向井さんの顔をまっすぐに見ながら、優しく訊いた。
子供はボロボロの衣服を身に纏い、破れかけた頭巾を被っている。
汚れた服から覗く小さな手足は、酷く細くて痩せていた。
その様子を口にすると、祖母は黙って台所へ向かった。
手には粗塩の入った袋を持っている。
そうしてそれを一掴み、向井さんが指差す場所に向かって投げた。
刹那、子供は掻き消えた。
「あれは多分、大人になれなかった子なんだ」
向井さんの頭を撫でながら、祖母が呟いた。
その言葉が今でも印象に残っている、という。
――「大人になれなかった」ねこや堂『恐怖箱 百聞』より
#ヒビカイ # こどもの日