【日々怪談】2021年5月6日の怖い話~円筒

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【今日は何の日?】5月6日:ゴムの日

円筒

 ある夏の夜、真鍋さんは池袋の公園のベンチで横になっていた。
 友人の失恋話につき合って、終電を逃がしたのである。
 正直、池袋の治安が余り良いとは言えない時代であった。そんなところで野宿をしていたら、自分が狩られる可能性もあった。だがそれは承知の上である。真鍋さんは腕っ節に自信があった。
 あと数時間したら山手線も動き出す。単なる酔い覚ましのつもりであった。

 携帯で暇つぶしをしていると、公園の中を〈たくったくったくっ〉と聞き慣れない音が響き始めた。
 何の音だろうと頭を巡らせると、直径三十センチほどで高さは子供の背ほどの円筒が飛び跳ねていた。
 街灯に照らされた姿は金属の質感だが、全体がゴムのように伸び縮みしている。
 かといって樹脂製という感じではない。
 それが地面に着地する度に、「たくっ」という音を立てているのだ。

 もしこっちに来たらと考えると、ベンチに座ったまま立ち上がることもできなかった。
 固まったようになったまま、真鍋さんはその物体に視線を注ぎ続けた。
 すると、雑誌の入った袋を持ったホームレスが真鍋さんの横に寄ってきた。
 そちらに構う余裕はなかった。
 ホームレスは暫く何も言わずに立っていたが、不意に声を掛けてきた。
「兄ちゃん、あれ見えてんだよな」
 囁くように言った。
「気ぃ付けな。あれ、人食うぞ」
 ホームレスはそのまま立ち去った。真鍋さんもすぐに公園から立ち去ったという。

――「円筒」神沼三平太『恐怖箱 百聞』より

#ヒビカイ # ゴムの日

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