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【日々怪談】2021年5月8日の怖い話~終電を待ちながら

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【今日は何の日?】5月8日:声の日

終電を待ちながら

 仕事で思いの外手こずってしまい、帰りが遅くなった夜。
 駅のホームで終電を待っていた。
「……ぁぁぁああああああ」
 遙か頭上から声が近付いてくる。
 見上げた目線の先、ホームの屋根をすり抜けてスーツ姿の中年男性が降ってきた。
 唖然とするこちらをチラリと見上げ、そのままごろごろとホームの下へ転がり落ちた。
「あ~~~」
 ホームの下から声がする。
「あぁ?」
 その声と同時に先程の男性がひょいと顔を出した。
「あ~~~」
 再び下へ潜る。
「あぁ?」
 また顔を出す。
 戯けたコミカルな動きだ。
 辺りを窺うと、どうやらこれが見えているのは自分だけらしい。
「あぁ?」
 視線はしっかりこちらを捉えながら、男性は同じ動作を繰り返している。
 ――これは狙ってやがる。
 込み上げる笑いを噛み殺したそのとき。
 ホームに入ってきた電車が、男性を撥ね飛ばした。
「あああぁぁぁぁぁ――…………」
 情けない声とともに男性は空高く飛ばされ、小さくなっていく。
 その姿に、ついに堪え切れずに吹き出した。

――「終電を待ちながら」ねこや堂『恐怖箱 百眼』より

#ヒビカイ # 声の日

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