【日々怪談】2021年5月14日の怖い話~ダンサー

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【今日は何の日?】5月14日:温度計の日

ダンサー

 木造の家というのは、家鳴りがするものだ。
 特に、新しい家ほどパキン、ペキンと音がする。
 これはよくラップ音と間違われるのだが、家の外と中で温度や湿度に大きな差ができると、家の柱や梁を支える木材が乾燥してわずかに伸びたり縮んだりする。このとき、木材に割れ目ができたり、それがまた戻ったりするために音がする。冬場にエアコンをガンガンかけながら寝ていると、不安になるほどベキベキと鳴り響く。
 こういう現象を家鳴りと呼ぶ。
 野本氏の家もよく鳴るので「乾燥してんだな」と思っていた。
 ある日、二階の部屋からやたら家鳴りが聞こえた。
 パキン、ペキン、バン、ベン。
 一階ではさほどでもないのだが、二階ばかりから聞こえる。しかも、連続してパキンドスンと鳴り続けている。
 音はだんだん激しくなってきた。
 ――いくらなんでも鳴りすぎだろう。
 野本氏は訝しんだ。
「……もしかしたら、泥棒かな?」
 掃除機の延長パイプを握りしめた野本氏は、足音を忍ばせながらそっと階段を上った。
 階段を上りきった正面には和室がある。
 開け放してあった襖の向こうに、フォークダンスをする男女がいた。
 体育着にブルマ、赤い鉢巻きをしている。
 マイムマイムのステップを軽やかに踏む二人は、野本氏の目の前でターンをするのと同時に消えた。

 その後、フォークダンスを見ることはなかった。
 しかし家鳴りは収まらず、相変わらずひどいままである。

――「ダンサー」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』より

#ヒビカイ # 温度計の日

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