【日々怪談】2021年5月29日の怖い話~久しぶり
【今日は何の日?】5月29日:呉服の日
久しぶり
近所のスーパーへ買い物へ行った帰り道でのことである。
「アッコちゃん、アッコちゃん」
和装の女が肩を叩いて、そう呼びかけてきた。
見知らぬ女だ。
「あ……」
「アッコちゃん、久しぶりよね」
「……」
「アッコちゃん、久しぶりよね」
「……」
まず、私はアッコという名前ではない。
そして、女の歯は真っ黒だ。
ここは、関わらぬが吉。
一度は足を止めたものの、軽く会釈をして再び歩み出した。
女は歩道に立ち止まったまま、追いかけてこない。
「ママ、今日着物の人が家にいたよ。アッコちゃんを探してるって」
家に着くと、留守番をしていた五歳の娘がそう言った。
「〈家にいた〉って何? いたの?」
「いたよ。今も多分、いるよ」
その日以来、家の中で、頻繁に不審な物音がする。
今日もまた。
――「 久しぶり」高田公太『恐怖箱 百聞』より