【日々怪談】2021年6月4日の怖い話~幼虫降らし

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【今日は何の日?】6月4日:虫の日

幼虫降らし

 桜の木の下には――。
「死体が埋まってるんだぜ!」
 というような話を友達としながら、村下少年は校庭の桜の木の下で遊んでいた。
 とりとめのない話をしていると、桜の木の下にいる彼らの頭に何かが降ってきた。
 ――ぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼと
 蛾の幼虫だった。
「わあっ! 芋虫! 毛虫!」
 幼虫は親指くらいの太さがあった。
 薄緑の体表には、教頭先生の頭と同じくらいの産毛のような毛が生えている。
 二人は口々に黄色い声で叫んで、頭と肩を払った。
 払っている間にも、幼虫は次々に落ちてくる。
 ――ぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼと
「触ったらかぶれる!」
 たまらなくなった二人は、桜の木の下から青空の下に逃げ出した。
 二人がそこを離れたあとも、特大の幼虫が枝の間から降り続けている。
「この木、こんなに毛虫がいたんだなあ」
 村下少年は驚きと薄気味悪さの入り交じった気持ちになった。
 少し離れたところから桜の梢を見ると、枝が大きく揺れている。
 風はない。
 幹の上のほうが、がさがさと不自然に揺れる。
 そのたびに、あの極太の幼虫が降る。
 青く茂る桜の若葉の間に、小さな人影が見えた。
 誰かいる。
「おい、あれ」
 友達も気付いた。
 眉のない禿頭の小男が三人ほど、枝の上のほうにしゃがみ込んでいた。
 そいつらが枝を揺するたび、幼虫は尽きることなく降り続けた。
 ――ゆさゆさ、ぼとぼとぼと
 ――ゆさゆさ、ぼとぼとぼと

――「 幼虫降らし」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』より

#ヒビカイ #虫の日

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