【日々怪談】2021年6月13日の怖い話~踏切
【今日は何の日?】6月13日:小さな親切運動スタートの日
踏切
門井さんが大学に入学した春のことである。
大学の新入生歓迎会で、先輩にたらふく呑まされてしまった。
泥酔してアパートに帰る途中、何度か吐いた。視界がくらくらして歩けない。とうとう乗換駅のベンチに寝転んで休む羽目になった。
暫くすると、
「そんなとこで寝てたら眩しいだろう」
と声を掛けられた。
蛍光灯の逆光でよく分からなかったが、ベンチの脇に立った男がこちらを見下ろしているようだ。
男は続けて、
「こっちで休むといいぞ」
と誘う。
門井さんは言われるままに起き上がり、のろのろとベンチから移動した。
吐き気は治まっていたが、まだ眠い。
――終電がなくなると駅から追い出されるんだっけか。
そう思い出し、あぁ、親切な人もいるもんだなと、言われた場所で横になった。
夏だというのにマントを羽織った真っ黒な人が立ち去っていく。
その後ろ姿に手を振った。
次に目が覚めたとき、周囲は真っ暗だった。虫の声が聞こえる。頭の下には冷たくて固いものがあった。
門井さんは、知らない町の踏切で線路を枕に寝転がっていたという。
――「 踏切」神沼三平太『恐怖箱 百聞』より