【日々怪談】2021年7月2日の怖い話~鯉
【今日は何の日?】7月2日:なまずの日
鯉
小学生の頃の穂積は、どちらかと言えば悪ガキだった。
川と見れば石を投げてみたくなるし、池と見れば石を投げてみたくなる。
魚がいたりすれば、もっと石を投げてみたくなる。
家の近くの神社には沼があった。
そこには鯉が棲んでいた。
神主が飼っているのか、それとも天然物なのかはわからない。
とりたてて誰かが世話をしているようにも見えなかったが、鯉は沼辺に人影があると浮かび上がってきて水面でぱくぱくと口を開いた。
誰かが餌をやっているのだろう。
餌をもらえるのだと思って浮かび上がってきたのに違いない。
試しに、練り消しを小さく丸めて投げてみた。
鯉は餌と思ったのか、練り消しが放り込まれた辺りで水を跳ねた。
その様子が面白くて、次から次へと練り消しを丸めて投げた。
最後のひとかけらを丸めて少し手前辺りに投げ込んだ。
魚が浮かび上がってきた。
大きさは五十センチほど。
黒っぽい身体に鱗はなく、ナマズのようにぬめりとしている。
その魚は、穂積が投げ込んだ練り消しをエラの辺りから生えた白い腕でつかみ取ると、濁った沼の底に沈んでいった。
たぶんあれは、鯉ではない。
――「鯉」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』より