【日々怪談】2021年6月29日の怖い話~やっぱりそうだよね
【今日は何の日?】6月29日:肉の日
やっぱりそうだよね
都内の某沿線を走る電車の中でのことである。
「うわうわうわ……マジで、マジで……うわうわうわ」
篠田君の隣に座る制服を来た男子学生が、ぶつぶつとそんな独り言を発していた。
「まずいよまずいよ。あり得ないッス。マジで」
寝癖の付いた髪と、黒縁の眼鏡、小太りの学生は一見してオタク風だった。さも独り言を言いそうなルックスともいえる。
「グッチャグチャじゃないっすか……キモッ……」
〈んー、こいつは何を言っておるのだ……〉
と何度目かの横目を学生に投げかけると、彼は何か一点を見つめていることが分かった。
目線の先を辿ると、向かいの座席に座る女性を見ていることがすぐに分かった。
「うわうわうわ、ほんとだほんとだ。これはない」
思わず篠田君も声を漏らした。
顔の肉がミンチ状になった女がそこに座っていた。
眼球だけが辛うじて所定の場所にあるものの、他は何がどうなっているのか分からないくらいに破壊されていて、ただ血でヌメった肉が顔にあるだけだった。
「でしょう!」
と学生が篠田さんに顔を向けて言った。
同時に二人で席を立ち、違う車両に移ることにした。
*
人でごった返す新宿の繁華街。
高宮さんが会社の同僚数名と良い飲み屋を求めて歩いていると、一人の白人男性に呼び止められた。
ペラペラペラ、と随分と早口の英語で話しかけてくる。
あまりに流暢過ぎて、残念ながら高宮さんには男が何を伝えようとしているのやら、さっぱり分からない。
高宮さん同様に戸惑っているところをみるに、同僚達もまた英語は得意ではない。
ペラペラペラペラ、と男はこちらが首を傾げるのにも構わずひとしきり続けたのち、真横にあるビルとビルの間を指さした。
見ると、そこには髪の長い女の生首が浮かんでいた。
「うわっ!」
声を上げるほど驚いたのは高宮さんだけだった。
他の同僚は困惑の表情を浮かべるだけだ。
「Oh,no……」
さも〈やっぱり他の人にも視えるのか〉と言わんばかりに肩を落とし、白人男性は涙目でふらふらと歩み去っていった。
その後、高宮さん達は大衆居酒屋に入った。
生首の話をしてみたものの、一笑に付されただけだった。
――「やっぱりそうだよね」加藤一『恐怖箱 百舌』より