【日々怪談】2021年7月1日の怖い話~安否
【今日は何の日?】7月1日:海開きの日
安否
真夏、海の家。
海パン一枚、顔面蒼白の男が猛ダッシュで入店してきた。
男はハァハァと息切れをして、肩を震わせている。
そんな様子であるため、店員も客達も男を注目せざるをえない。
「参った。溺れちまった!」
誰が問うた訳でもないのに、男は話し始めた。
「どうにもならないもんだ。ほんとに。大変だった」
オーバーに腕を振り上げ、ほとんど怒号に近い調子で男はそう言った。
興奮しているのだろうが、店からすると迷惑な客だ。
何とか男を落ち着かせようと厨房から店主が出てくる。
「そうかい。溺れたのかい。でも、無事で良かったじゃないか」
店主がそう声を掛けると、男は、あっ、と何かに気が付いたような顔をした。
そして、まるで息を吹きかけられた蝋燭の火のように、スッ、と消えた。
――「安否」高田公太『恐怖箱 百舌』より