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服部義史の北の闇から~第3話 アルバムを開いて~

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 ある休日のこと、新田さんはアルバムを開いていた。
 幼少期からの物を独り暮らしを始める際に実家から持ってきていたのだが、大人になってからの写真はスマホなどで事が足りていた。
 これ以上は写真が増えることもないだろうと、整理を始めたのである。

 ページを捲るたびに、記憶が呼び起こされ手が止まる。

(あー、こんな玩具もあったよね)
(お父さん、めっちゃ若いー)

 大切な想い出を確認する作業は、ひと時の癒しを与えてくれていた。
 が、あるページを捲った途端、彼女の思考がぱたりと止まる。

(あれ? これ、うち?)

 ある一枚の写真に違和感を覚えた。
 和室の仏壇の前に座る新田さん。
 恐らく幼稚園の頃だと思われるが、笑顔でこちらを向いていた。
 違和感があったのは仏壇で、彼女の記憶にあるものとはどうにも違う。
 背景として少しだけ見えている和室は実家のもので間違いがないが、そこに存在感を増したように写っている漆黒の仏壇だけはどうしても受け入れることができなかった。

(もしかしたら、途中で仏壇を買い替えたのかなぁ?)

 そう思うことで、次のページへ進んだ。
 途中途中で配置を入れ替えたり、自分が可愛く写っていない物はアルバムから抜いていく。
 一通りの作業が終わった時には、既に夕方になっていた。
 アルバムを仕舞い、彼女は夕食の買い出しに出掛けた。
 帰宅後、夕食を作ってテレビを見ながら食べていた。
 その時に母親から電話が入った。
 いつものように他愛もない話に花が咲く。
 一時間ほど話した頃、そろそろ電話を切る流れになった。

「あ、そういえば、うちって仏壇買い替えたんだっけ?」

 突然脈絡のない話を持ち出した新田さんに、母親は怪訝そうな声を返す。
 新田さんはアルバムの整理をしていて、見覚えのない仏壇が写っていたことを説明した。

「ちょっと意味が分からないんだけど、うちの仏壇はずーっと同じよ。お母さんが嫁いできた時にはあった物だから、ずーっと同じ物」
「えっ、でも……」

 母親にはっきりと断言されてしまうと、自分の記憶違いのような気もしてきた。
 もしかしたら写真写りが悪く、違うものに見えただけかもしれない。

「じゃあ、仕事頑張ってね」

 そうして電話は切られた。

 翌日の七時過ぎ、実家からの電話が鳴った。
 出勤の準備をしていた新田さんは化粧を片手に電話に出る。

「あ、お父さん。どうしたのこんな早くに……」
「いいか……よーく落ち着いて聞きなさい。で、落ち着いて帰ってきなさい」

 どうにも涙ぐんだような声の父親は、よく分からないことを言っている。
 言いあぐねているようで、酷く遠回りな話し方であったが、核心に触れた瞬間、新田さんは固まる。

「母さんが、死んだんだ……」

 昨夜遅く、トイレに起きようとした父親は、横で寝ている筈の母親がいないことに気付いた。

(母さんもトイレか)

 トイレに向かうと、ドアの前で倒れている母親を見つけた。
 慌てて救急車を呼んだが、既に事切れていたという。
 すぐに新田さんに連絡をすることも考えたが、なにぶん深夜である。
 駆け付ける新田さんに万が一のことが起きないようにと、朝を待っての電話であった。

「それから数年経ってからですかねぇ」
 
 母親の死から落ち着きを取り戻し、漸くアルバムを開けるようになった。
 若い母親が笑顔で自分と映っている。
 ポロポロと涙を零しながら、ページを捲り続ける。
 ところがあるページで手が止まった。
 彼女の目に飛び込んできたのは、記憶にない一枚である。
 例の〈仏壇の前で取られた写真〉であるが、座っている彼女の横には笑顔の母親が写っていた。
 そして漆黒の仏壇は、実家の仏壇に変わっていた。

「もしかしたら、あの時見た写真が、何かの知らせだったのかもしれないですよね。それが分かっていれば、電話で話もしていたんですから……」

 新田さんは、何かできたのかもしれない、という後悔のようなものを抱えている。
 例の写真も〈曰くつきの物なのかもしれない〉とは思いつつも、捨てられないでいる。
 その理由は、母親の満面の笑顔に愛情を感じるからだという。

著者プロフィール

服部義史 Yoshifumi Hattori

北海道出身、札幌在住。幼少期にオカルトに触れ、その世界観に魅了される。全道の心霊スポット探訪、怪異歴訪家を経て、道内の心霊小冊子などで覆面ライターを務める。現地取材数はこれまでに8000件を超える。著書に「蝦夷忌譚 北怪導」「恐怖実話 北怪道」、その他「恐怖箱」アンソロジーへの共著多数。

★「北の闇から」は隔週金曜日更新です。
次回の更新は7/3(金)を予定しております。どうぞお楽しみに!

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