服部義史の北の闇から~第7話 猫とコーラ~
初夏のある日、田辺さんは缶コーラを飲みながら通りを歩いていた。
何気に視線を送った道路を猫が横断している。
その直後、猛スピードで走ってきた車に、その猫は跳ねられてしまった。
予想だにしていない事態に、彼の身体は硬直する。
猫はまだ息があるのだろう。ピクピクと動きながら、何処かへ移動しようとしているのだが、明らかに無理そうであることは見て取れた。
(可哀想に……)
そう思いながらも、田辺さんはその場から立ち去った。
その後、歩いていると書店前まで来たので、折角だからと中を覗いてみることにした。
残っているコーラを飲み干そうと一気に口に流し込む。
(んっ?)
何かの違和感を覚える。
口の中の物をベッとその場に吐き捨てると、その正体を確かめるべくしゃがみ込む。
若干の炭酸で泡立つ液体の中、小さな白い物が見つかった。
それは牙という感じを受ける小さな歯であるように思えた。
(マジかよ、気持ち悪い)
田辺さんはすぐに書店のトイレに駆け込み、口の中を漱いだ。
精神的な問題かもしれないが、幾ら漱いでも気分は悪い。
しかし、あの歯はいつの間に缶の中へ入り込んだのだろう。
猫の事故には遭遇したが、その瞬間に歯だけが缶の中に入る可能性は低いといえる。
そうなると異物混入が疑わしい。
田辺さんはメーカーにクレームを入れる為の証拠品が欲しいと考えた。
すぐに通りに戻り、先程戻した付近を探す。
しかし、何処にもあの小さな歯は見当たらなかった。
泣き寝入りかよと諦めて、その日は帰宅した。
「で、その日から変なんです」
田辺さんは炭酸飲料が好きなので、色々な種類のジュースを常に飲んでいた。
ただ、コーラを飲んだときだけ、途中でペットボトルや缶から歯が見つかる。
出てきた歯を一度避けておくのだが、間もなく猫の鳴き声が耳元で響いた瞬間、何故か消え失せてしまうという。
「これって、やっぱあのときの猫が呪っているってことなんですかね。でも、轢いた奴じゃなくて、何で俺なんですか?」
理不尽とは思いつつも、回避できる策として、最近の田辺さんはコーラを飲むことを我慢している。
著者プロフィール
服部義史 Yoshifumi Hattori
北海道出身、札幌在住。幼少期にオカルトに触れ、その世界観に魅了される。全道の心霊スポット探訪、怪異歴訪家を経て、道内の心霊小冊子などで覆面ライターを務める。現地取材数はこれまでに8000件を超える。著書に「蝦夷忌譚 北怪導」「恐怖実話 北怪道」、その他「恐怖箱」アンソロジーへの共著多数。
★「北の闇から」は隔週金曜日更新です。
次回の更新は8/28(金)を予定しております。どうぞお楽しみに!
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