服部義史の北の闇から~第14話 心霊番組の楽しみ方~
弓削さんはある晩、心霊番組を見ていた。
大抵の内容はフェイクであると、馬鹿にしながら見るのが彼のスタイルであった。
「これは作り込み過ぎだろ」
「あー、酷い出来だわー」
一つ一つの投稿映像に、突っ込みを入れながら見続ける。
番組も中盤を過ぎた頃、一つの映像を見ていた。
とある山の中の風景である。
その風景の中で、明らかに女性と思える顔が映り込んでいる。
女性の顔は苦しそうな表情で口を開け、僅かに覗いた眼球からは何か訴えかけるものを感じた。
「おっ……おう……」
霊感などは持ち合わせていない弓削さんではあるが、背中に冷たいものが走った。
番組上、各映像ごとの最後に、霊がいる場所を表示してくれるのだが、弓削さんが気付いた箇所は無視され、別の場所に霊がいると言っている。
「いや、そんなのより、こっちの方だって!」
そんな言葉を吐いてるうちに、次の映像が流れ出した。
彼の気持ちの中では、新しい映像などは既にどうでもよくなっていた。
先程の女性の顔が脳裏に焼き付き、恐怖心を高まらせる。
「マジかな? マジのやつかな? 多分、やばいやつだって、アレ」
丁度、そのタイミングでCMが流れた。
家族団らんの食品の映像に、一瞬、心が緩む。
『カン、コン、コン、カンッ……』
微かではあるが、ノックに近いような音が聞こえた。
身体は緊張で強張り、耳を澄ませるようにして音の出所を探す。
『カン、コン、カン、カン、コンッ……』
どうやら音は部屋の窓の方からしているらしい。
彼の部屋は三階にあり、窓の下は通りに面している為、人などがいる筈もない。
カーテンの前に立ち、耳を向けるとやはり窓ガラスを何かで叩いているような気がする。
逡巡するが、意を決し、勢いよくカーテンを開けた。
――何もない。街灯がぼんやりと照らす暗い街並みが見えるだけであった。
(ビビらせやがって、何もいる筈がないんだって)
そう思った瞬間、映像に映り込んでいた女性の顔が、窓ガラスに貼り付いた。
大きさで言うなら、通常の人間の三倍くらいはあるだろうか。
余りのことに弓削さんはその場に崩れ落ちるが、恐怖で女性の顔から目を背けることができない。
その顔は口をゆっくりと動かし、何かを話しているようではあったが、彼の耳には何も届かなかった。
その緊迫した時間が続いていると、彼は突然意識を失った。
恐らくは彼の緊張感が限界を迎えたのだろう。
「そのときの番組って、録画していなかったから確認のしようがないんですよね」
彼は確かに映像の中に、女性の顔を見たという。
その顔は、何故か彼の部屋の窓ガラスに現れ、気付いたときには消えていた。
夢や見間違いではないという証拠に、窓ガラスの外面には顔の大きさで皮脂汚れのような物が残っており、それは三週間ほどは消えなかったそうだ。
著者プロフィール
服部義史 Yoshifumi Hattori
北海道出身、札幌在住。幼少期にオカルトに触れ、その世界観に魅了される。全道の心霊スポット探訪、怪異歴訪家を経て、道内の心霊小冊子などで覆面ライターを務める。現地取材数はこれまでに8000件を超える。著書に「蝦夷忌譚 北怪導」「恐怖実話 北怪道」、その他「恐怖箱」アンソロジーへの共著多数。
★「北の闇から」は隔週金曜日更新です。
次回の更新は12/4(金)を予定しております。どうぞお楽しみに!
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