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5つの十大主星がすべて同じ!稀有な人体図を持つ女性の怪(後編)「算命学怪談 占い師の怖い話」

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算命学とは?

 算命学は古代中国、戦国時代に活躍した鬼谷子という人によって作られたといわれる運命学。
 王家秘伝の軍略として、歴史の闇の中でひそかに伝承されてきたものが基本となっていると言われる(ただし、鬼谷子が実在の人物だったかどうかは諸説あり)。
 占い師が最後にたどりつく占いとも言われ、生年月日から導く命式で霊感の有無、時には寿命までわかるというのだから不思議で恐ろしい。本連載は、算命学の占い師・幽木武彦が鑑定の中で遭遇した戦慄の実話怪談をお届けします!

#2 車騎星を生きた女(後編)

(これまでのあらすじ)
父の訃報を受け、病院にかけつけた矢幡さん。霊安室に安置された父の遺体を見ると、女の土左衛門の幽霊がしがみついている。どうやら自分にしか見えていないようなのだが、朧な記憶を手繰るうち、矢幡さんはその女の霊の正体に思い当たる…

★前編はこちら

 いざその人を思いだしてみると、どうして今まで気がつかなかったんだろうと不思議にすら感じた。
 その女性は遠い昔、矢幡さんの父と入水自殺を図った。そして、死にきれなかった愛人を残し、一人寂しくこの世を去った。
「私が小学校二年生ぐらいでしたから、父が三十八歳。その女の人が、たしか二十七、八ぐらいのときってことになるかしらね」
 二人がどういう経緯で深い仲になったのかは、矢幡さんにはもちろん分からない。
 だが、そのころ仕事がとても順調だった父のはぶりがよかったこと、ことあるごとに加寿子さんと喧嘩をしていたことは、なぜだかよく覚えている。
 女性は、父親の経理事務所で働いていた。
 加寿子さんとはタイプの違う、男好きのする人だったという。
 事務所の部下と抜きさしならない関係になった父親は、彼女を愛人として囲った。
 家庭をないがしろにして妾宅に入り浸るようになった夫を加寿子さんはなじり、派手ないさかいをくり広げたが、がんとして離婚には応じなかった。
 そんな中、父とその女性の心中事件が勃発した。
 一人この世に帰還した矢幡さんの父親は、家にこそ帰ってきたものの、加寿子さんとの関係は死ぬまで仮面夫婦になった。
「つまり……愛人だったその人が迎えに来たってことになるのかしらね、私の父を」
 矢幡さんはそう言って顔をしかめ、複雑な心中を覗かせた。
「まちがいない、多分その人だって、私は確信したの。いつも寂しげにぼんやりと、家の縁側から庭を見ていた父の横顔も思いだしました」
 ――今度こそ、二人で一緒に。
 醜い土左衛門の霊は、そう言って父の亡骸に抱きついているようにも見えた。
 しかし、そのことに気づいているのは、多分矢幡さんただ一人。いいのかな、ほんとにこのままでと、彼女は母親を気づかった。
 父が亡くなる二日ほど前からは、満足に寝ることもできなかったようである。
 疲労はピークに達しているはずだった。
 だが、加寿子さんはそんなことは微塵も感じさせず、葬儀スタッフとの打ちあわせなどをてきぱきと進め、とうとう通夜のときを迎えた。
「父は棺に入りましたが、もちろんその女性も一緒のままでした。困ったなと思いながら棺の中を覗くと、その女性は目玉のない顔で私を睨み、噛みつくような勢いでなにごとか吠えたりしていました」
 通夜と葬儀は地元のセレモニーセンターで執りおこなわれた。お経を上げに来てくれたのは、矢幡さんも幼いころから知っている菩提寺の僧侶である。
 通夜のときは、なんとか我慢をした。
 覚悟が決まっていなかったと言ってもよい。
 だが翌日、いよいよ葬儀となった段で、矢幡さんは儀式をつかさどる老僧にひと言相談をしようとした。
「だって、やっぱりちょっと母が不憫でね。いろいろと面倒な人で、私との関係だって決して良好というわけではなかったけれど、それはそれ。自分の旦那が荼毘に付されようとしているのに、愛人の女性が一緒にくっついているだなんて、母のことを思うと黙っていられなかったんですね、娘としては」
 矢幡さんは意を決した。僧侶に霊感があるかどうかは知らなかったが、このような場合の対処法ぐらいは分かっているのではないかと思った。
 なにがしかの儀式めいたものをしてもらい、愛人の霊を父から離してほしかった。

 やがて、僧侶が葬儀場に姿を現した。
 準備のため、用意されたひかえ室に入っていく。
 ぶしつけであることは百も承知だった。だが、やはりこのままではいられない。
「誰にも相談しませんでした。だって女の人が見えているのが私だけなら、他の人に相談したってしかたのないことですから」
 会葬者などへの挨拶に追われていた矢幡さんは、さりげなく人の輪からはずれ、僧侶のもとに向かおうとした。
 すべてを秘密裡に進め、なにごともなかったかのようにしたかった。
 ところが――。
「突然、うしろから呼び止められたんです。私、悪いことをしていたところを見つかったときみたいに、思いきりギクッとしてしまって」
 誰に声をかけられたのかは、すぐに分かった。あわてて振り向くと、母親の加寿子さんがいる。
「ものすごい顔をして、私を睨んでくるんです。あんな母を見たのは久しぶりだったわね。子供のころ、よく私を怒鳴っていたときの母とおんなじ顔をしていました」
 すくみあがる矢幡さんに、加寿子さんはつかつかと歩み寄ってきたという。
 そして、右へ左へと視線をやり、あたりをはばかるような小声になると、
 ――よけいなこと、しないでもらえる?
 改めて矢幡さんを睨み、怒気をはらんだ声で言った。
 矢幡さんは思わず「え?」と聞きかえした。加寿子さんの言わんとしていることが、すぐには分からない。すると加寿子さんは、噛んで含めるようにこう言った。
 ――これは私とお父さんの問題なの。私とお父さんと……あの女の。
 矢幡さんは絶句して、加寿子さんを見た。
 加寿子さんはそんな矢幡さんを「いいわね。二度は言わないわよ」ときつい目で睨むと、ふたたび急ぎ足で戻っていった。
「すぐにはすべてが理解できませんでした。でもどう考えても、つまり母にもあの不気味な霊がずっと見えていたってことですよね。となると、母にも昔から私と同じような力があったってことになるじゃないですか。子供のころ、私が訴えると『そんなもの、この世にいない』と私のことを引っぱたいたことだってある人ですよ」
 矢幡さんはそう言って、自分の母親にあきれたように苦笑した。
 結局、矢幡さんは母親の意を汲み、僧侶に相談することはやめにした。
 僧侶はやはり霊感がないのか、それとも分かっていながら悪戯にことを荒立てる必要はないと判断し、前夜同様にやり過ごすことにしたのか。
 結局、霊の存在にはひと言もないまま葬儀の読経を終え、矢幡さんたち家族は火葬場へと移動した。
「棺の中の父を見ると、もう半分ぐらい、女の霊が父の身体の中に埋まってきていました。まるで母に見せつけてでもいるかのように。私には『悔しかったら、あなたもくれば』って、その人が母を挑発しているようにも見えました。まるで笑っているようにも見えたかな」
 そんな霊と父の姿は、しっかりと加寿子さんにも見えていたはずである。
 しかし加寿子さんは、一貫して顔色一つ変えることもせず、終始淡々と、矢幡さんの知るいつもの母親のまま喪主の務めを果たしつづけた。
「気持ちの悪いその霊を私が見たのは、後にも先にもそのときだけでした。でもひょっとしたら、母はもっと以前からその人の存在を知っていた可能性もあるわよね」
 矢幡さんは、なんとも複雑そうな顔つきになった。
 霊感がありながら、ずっとそれを隠しつづけた加寿子さん。
 他の女と心中までしようとした夫との離婚をがんとして拒み、結局死に水まで取って、本妻のプライドをまっとうした加寿子さん。
 そして、自分を挑発する夫の愛人の存在を、彼女が死んでもいっさい認めず、夫を見送る最後まで完全に無視しつづけた加寿子さん。
「これって、車騎星を生ききった人……だったんですかね」
 矢幡さんはそう言って、困ったように微笑んだ。

 加寿子さんは、天寿をまっとうするまでただの一度も、葬儀の日に起きた娘との一件に触れることはなかったという。
 五つの十大主星が全部、車騎星。
 次にそうした人がこの世に誕生するのは、(ある流派の計算によれば)二○八二年一月十七日である。

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すべての怪は宿命だった…。
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著者プロフィール

幽木武彦 Takehiko Yuuki

占術家、怪異蒐集家。算命学、九星気学などを使い、広大なネットのあちこちに占い師として出没。朝から夜中まで占い漬けになりつつ、お客様など、怖い話と縁が深そうな語り部を発掘しては奇妙な怪談に耳を傾ける日々を送る。トラウマ的な恐怖体験は23歳の冬。ある朝起きたら難病患者になっており、24時間で全身が麻痺して絶命しそうになったこと。退院までに、怖い病院で一年半を費やすホラーな青春を送る。中の人、結城武彦が運営しているのは「結城武彦/幽木武彦公式サイト」。

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