そもそも社畜の定義とは!?…社畜鼎談 from『社畜怪談』完全版 最終回
社畜怪談を企画立案して下さった黒碕 薫・佐々原 史緒両先生と、私(久田)で鼎談を行いました。時間は一時間半以上に及び、様々な話題が飛び出して……。結果、書籍の方では六ページに再編集したものしか載せられないほどに。
今回はウェブ特別編として〈社畜怪談 完全版 最終回〉をお送り致します。
またまたなにやら企みごとといいますか……。
是非こちらも、〈社畜怪談〉を読む前・読んだ後の二回読んでみて下さい。きっと相互作用して、それぞれもっと興味深い内容になるはずです。
では、社畜鼎談 第三回をお楽しみ下さい。
※文中の(注)と( )による補足は久田による
目次
社畜プロフィール
黒碕 薫 Kaoru Kurosaki
小説家。『武装錬金』『るろうに剣心北海道編』(集英社/和月伸宏)のストーリー協力もしている。社畜歴はエンジニアリング会社で4年ほどだが、つらかった思い出しかない。その後外注で入ったゲーム会社はとても楽しかった。(社畜歴:4年)
佐々原 史緒 Shio Sasahara
作家。広告代理店勤務中に二人三脚漫画家の原作担当としてデビュー。2001年小説に転向。ホラー代表作は「1/2アンデッド」シリーズ(KADOKAWAファミ通文庫)。(社畜歴22年)※のべ
久田樹生 Tatsuki Hisada (本連載執筆者)
作家。小説から実話怪異譚まで手がける。代表作に「犬鳴村〈小説版〉」「ザンビ」「南の鬼談 九州四県怪奇巡霊」(竹書房)等。あな恐ろしや服飾系から工業系まで色々働いた経験あり。(社畜歴:25年)
「社畜だから」って言える人
久田 樹生(以下 久田) ここでお訊きしますが、社畜の定義って何でしょう? ネットなどで見ると「会社に忠誠を誓った人」的なもの、とかありますが。
佐々原 史緒先生(以下 佐々原) やっぱり、「会社に鼻面引きずり回されている人」じゃないですかね? 厭でも、厭じゃなくても。
黒碕 薫先生(以下 黒碕) 厭じゃない人も居るよ!
佐々原 まあ、確かに厭じゃない人も居る。
久田 でも、(書いていると)揺らぎませんでしたか? 社畜の定義。
佐々原 私はどっちかというと今回書いた話は、その、あまりにもヘヴィな労働でいろいろあった話が多いので、そういう意味ではあまり社畜の意味は揺らがなかった。
久田 でも、社畜であることを気付かない人、その人は社畜なのかな? って思ったんですよ。
佐々原 そこは自分で「社畜だから」って言える人のレベルでは、本当は(社畜では)ないのかも知れないけれども(笑)。あと、最中の時は気付かない。今回お話を伺った人何人かは、当時は社畜って言葉がなかったこともあるかも知れないけど、自分がそうだと思っていなかった。ただ一生懸命、その場その場で頑張っていて、蓋を開けたら社畜だったなぁ、っていう。今思えば、こういうところを会社に利用されていた。今思えば、こういうところを上司に巧みに使われていた。で、自分が酷い目に遭ったりした、って人が結構多い。
久田 喉元過ぎないと気付かないもんなんですかね? そうなると。
佐々原 渦中の時は必死すぎて分かんないことも多いんじゃないですかね? もちろん、自嘲紛れに見切りを付けられる人も多いと思うんですけど、心を病んだり、こういう怖い現象に巻き込まれるところまで行っちゃう人って気づけない。どっちかと言うと「自分がもっと頑張れば良いんだ」って追い込んじゃうタイプの人が多い気がしますね。
黒碕 なんか真面目な人が多いよね。
久田 確かに。だから真面目な人が搾取されている臭いがプンプンするんですよ。
黒碕 そうそう。
佐々原 その通りですね。今回書かせて貰った人は皆真面目で、まあ大体、真面目であるが故にエライ目に遭わされた人が大部分ですね、やっぱり。
久田 でも社畜にさせている側、会社側ってそれに気付いていないのが分かったんですよ。今回書いていて。
佐々原 (笑)
久田 ベンチャー企業立ち上げました! みたいな人のやつとか。「そりゃ、キミ、恨まれるよね?」と言う。
逃げ足の速さは天下一品だぜ! イエーイ!
久田 黒碕先生的に社畜の定義って何かありましたか? 書いているときに。
黒碕 あー……。社畜は、うん。そうだね。わたしの場合は、凄く、会社のことに対して真面目に取り組みすぎて……なんて言うのかな? 会社の事は会社の事。自分のプライベートは自分のプライベートなんだ、っていう線引きが出来ない、出来なくなっちゃっている人が社畜かなって。そう思って書いていました。
佐々原 なるほど。
久田 全て(仕事もプライベートも)地続きになりますよね、繁忙期って。
黒碕 でもさ、本当は心を護ったりとか、プライベートを護るためには、「それはそれ、これはこれ」って大きく溝を作って防御しておかないと、全てが雪崩れ込んで来るでしょ?
佐々原 全くだ。
黒碕 なんか時間を吸い取られるのもそうなんだけど、気持ちを持って行かれるのが一番良くないよね。
久田 ああ……。
黒碕 会社の人のことでいつもイライラしてるとかさ、そうのがさ。
佐々原 ホントに病んだことあるから分かる(笑)。
一同 (笑)
黒碕 そこの線引きが出来るようになったら、いいんだけどねぇー。
佐々原 渦中の人は気付かないんだよね。その線引きが上手く出来ない。
久田 渦中の人って、自己評価が凄く下がるじゃないですか?
佐々原 そうそうそうそう。そうですね。
久田 で、負のスパイラルに入っていっちゃうっていう。見てて辛いなぁと思うんですけどね……。だからさっきの話(注:第二回参照)じゃないですけれどそういう人は気が弱くなっちゃって、見ちゃうとか。取り憑かれちゃうって(話が)多いらしくて。
黒碕 うーん……。
久田 リアルの人に何も言えないような人って、幽霊にもやられちゃうんじゃないかな。
黒碕 佐々原 ああー……。
黒碕 怖い怖い(笑)。
佐々原 怖い怖い。
久田 だから、割と言いたいことを言わないとダメだよね、っていうことを伝えても耳に届かないんですよ。社畜さんには。「いいじゃん、逆らったって。ゼロに戻るだけなんだよ」って言っても、やはり彼らは仕事があって会社があって。(その)会社に仕えなくちゃいけない自分で良いと思い込んでいる。「いいじゃん、逃げちゃえよ」って思うんですけどね(苦笑)。
黒碕 (笑)
佐々原 それが、真面目な人は出来ないんですよね。逃げる自分が許せないんですよね。多分ね。
久田 うん。だから、心に棚を作って「それはそれ、これはこれだよ」ってやらないとアカン気がするんですよ。やっぱり。
黒碕 わたしは何か、割と早い段階でその社畜系、社畜から逃げてしまったタイプの人なので。自分の逃げ足の速さは天下一品だぜ! イエーイ! って思いながら(笑)。
久田 その踏ん切りの付け方って何かありましたか? そのきっかけって。
黒碕 踏ん切り付けるきっかけ……うーん。やっぱり過労かなー? 身体が凄く疲れちゃったっていうのが一番大きくって、「これはもう命の危険があるかも知れない。ヤバい、俺は逃げるぜ!」、ピュン! って。
久田 (笑)それが一番良いことですよ。多分。
佐々原 わたしも一番初めに勤めた会社はそうでした。「こりゃ死ぬな」って(笑)。
一同 (笑)
久田 最初の会社を辞めた理由が(以下どこの会社が限定される載せられない話が続く)……若かったんですよ、当時って。だから辞められた。でも今じゃ年を取って立派に社畜になって(笑)。「休日出勤? 当たり前じゃないッスか!」って(笑)。
黒碕 (笑)確かに若さが故にこう、「こんな所に居られない!」って、社畜を辞める原動力になるけど、清濁併せて飲めるようになると、良い感じの社畜になっちゃうよね(笑)
久田 社畜がぬるま湯になっちゃう(笑)。
佐々原 確かに。
久田 「まだまだ甘いよね」って(笑)。でも、それこそ社畜怪談を読んだ人が気付くかな? って。ちょっと期待しているのが。「自分も社畜だぜ!」って。
黒碕 あー!
久田 「自分、社畜だぜ。辞めてもいいんだぜ」って。佐々原先生の(書いた話は)ばっちりそれがくると思うんですけれども。
佐々原 (笑)。ホントですよ。削った9
ページが最強にそれでしたね。それを言ったら(笑)。
久田 ああ(笑)。黒碕先生の書かれた物も、読者の琴線に触れるんじゃないかって思うんですけどね。
黒碕 わたしのやつは、キーワード検索すると「ここの神社のことか!」って分かってしまうものなので(笑)。誤魔化した方が良いのかなぁ? 眷属拝借っていう制度のある神社があって(以下、内容に関しての話が続く)
久田 いや、いいんじゃないですか? ネガティブな内容ではないですし。
黒碕 書いちゃって良いかな(笑)。
久田 今回の本、私、無責任に思うのが「面白い本になるだろうな」と。結構手応えが(笑)。
黒碕 いや! 面白いと思いますよ! 佐々原先生の話、知っているし(笑)。
佐々原 友人知人みんな知っているので、読んだら「あー」ってなるかも知れない(笑)。吹聴して歩いているから(笑)。
黒碕 知っている人は「あ、この話、書いたんだ!」って。
久田 でも怪異譚を載せる本って書くと(以下、これまで仕事で身に降りかかったこと・起こったことを話す)。そういう意味で、大丈夫かな? って思うところはあります。
黒碕 大丈夫です! 護られています!
佐々原 お祖母ちゃんに(笑)。
黒碕 うちのお祖母ちゃんに護られているから大丈夫です!
実はちょいと新シリーズをやりたいな
久田 社畜怪談は上手くいくと仮定して、実はちょいと新シリーズをやりたいなと。――「鬼畜怪談」ってどうですか?
黒碕 佐々原 (笑)
黒碕 鬼畜怪談!?
久田 だから、社畜怪談が社畜なので、鬼畜怪談は鬼畜な人の話。さっき話していた(9ページ)削った部分を復活させるとか。
佐々原 でもどういう方向性で行くのか。社畜怪談はタイトルですぐピュッて結びつくけど。鬼畜だと何書けばいいんだ?
久田 今回書いていて思いませんでした? 「これ、社畜じゃねぇな、ヒデェ人間の話だな」って言うような奴。それを書けば良いのかなって。
(以下、新企画に関する相談が続く)
久田 ……で、社畜怪談2もですが、鬼畜怪談もやるとして、他にやりたいのがあって。ほら、前から黒碕先生と話していた、「不思議×旅もの」。あれがやりたいんですよね。
佐々原 でもこのご時世だと、旅ものは。
久田 だから、終息後に行きたくなる、そんな感じのポジティブな感じにしたいんです。内容はこんな状況になる前のことを書いて、そして世界が変わってからのものはまた改めて終息後に取材してやれば良いかな、って。
黒碕 あ、座敷童の取材に行きたい!
久田 前に話していた奴ですね。緑風荘じゃないとこの(注:久田が黒碕先生と前から行こう行こうと行っていた場所。一ヶ所ではない)。行きましょう! ってところで、次回以降に関する抱負を……。
(そのとき、突然携帯の着信音が鳴る)
佐々原 あ、わたしだ。いつもは鳴らないのに、このタイミングで。
黒碕 怖い怖い!
久田 (仕切り直して)では、抱負を……えーっと、五十音順で。
黒碕 あ、わたしかぁ! コロナが収まったら、ホントに座敷童関係の取材に行きたい! 行って、取材をした話を小説とかに書きたいです。社畜2と鬼畜もやりたいですねぇ。
佐々原 社畜2も是非やりたいです。鬼畜もいいですが、その前に旅ものをやりたいかな。皆さん、いま、どこかに行きたくても行けない気持ちかと思うので。そういうのが、いいと思います。まあ、一番いま鬼畜なのが「在宅勤務をさせてくれない上司」って答える人が多いから、結論が出ているし(笑)。
黒碕 結論が出ているなぁ、鬼畜には(笑)。
佐々原 だから、先行させるなら旅ものがいいんじゃないかな、って個人的には。
久田 旅ものなら、タイトル、なんて付けます?
黒碕 「○畜」じゃないといけないなら、「蘊蓄」。
久田 蘊蓄! 蘊蓄だったら旅以外でも何でもいけますよね?
黒碕 何でもいける!
佐々原 ……「股旅怪談」とか。股旅……ちょっと言葉が古いな。普通に「トラベル怪談」でいいんじゃない?
久田 インバウンド怪談で(日本に来た海外の人から)海外物(の怪異譚)を集める?
黒碕 (笑)
佐々原 意外に海外のお化けは根性がないので(笑)。旅先で怖い目に遭った話って割とパターン化されている気がしますよね。海外で。日本だといろんなバリエーションがあって聞くけど。まあキリスト教は幽霊を認めないから、本来は。
久田 そっかぁ……。わたしは前から黒碕先生と言っていた旅ものをやりたいんですよ。グラビアたっぷりで。風景写真や寺社の写真を入れて。以前取材したものをやって、そして新たに取材をしたものも次の本として。それこそ病よけのパワースポットが必要なら、神社さんやお寺さんも含めて。
黒碕 なら、アマビエも描こうぜ!(笑)
(以下、アマビエのことや、これから先の話を延々語る)
(二〇二〇年 七月二十七日 リモートにて収録)
さて、社畜鼎談、全三回をお送りしました。
如何だったでしょうか?
それぞれの回で「!」な内容を含んでいたと思います。
そして、更なる新企画の展望まで。ご期待下さいませ。
――と、その前に〈社畜怪談〉を是非。
何卒宜しくお願い致します。