竹書房怪談文庫 > 怪談NEWS > 連載怪談(完結) > 社畜怪談(久田樹生) > 座ると死んでしまう席がある会社…「社畜怪談#4」

座ると死んでしまう席がある会社…「社畜怪談#4」

Pocket

  8月28日発売の【社畜怪談】
 社畜がテーマの実話怪異譚集です。
 テーマがテーマなだけに、いろいろな体験談が集まりました。
 それこそ、小話のようにさらっと(?)したものから、根が深そうな物まで。

 第4回は〈ある会社の話〉です。
 短めの小話的な体験談ですが――。
 では、どうぞ。

無料で読める怪談話や怪談イベント情報を更新しています

#4 幸いなことに

 システム開発を請け負う会社がある。
 あるフロアには〈デスクを置かず、敢えてデッドスペースとした場所〉が存在している。
 席があったとき、そこに座った人間が突然倒れたり、おかしくなったりすることが頻発したからだ。
 だからデスクとチェアごと撤去された。以来、席が作られたことはない。
 ではなぜそんなことが起こるようになったのか。
 事の始まりは、その場所がまだ普通に使われていた頃に遡る。
ある日、そこに座っていた人物が突然死した。
その人は激務の最中、モニタの前で声もなく倒れ、そのまま息を引き取った、と言う。
 亡くなった人は大量の仕事をこなすため、残業時間超過や休日出勤の連続で、ほぼ会社に住んでいたような状態であった。
 以降、その席に座ると異常が繰り返し起きるようになった。
 迷信やオカルトを信じない人が多い会社であったが、流石に問題視され始める。
 そこで〈席そのものを撤去して、物理的に座れないようにする〉という決定が成されたのである。
 おかげで、底に座り犠牲になる人間は居なくなった――のだが、まだ他にも懸念事項があった。
件の社員が突然死して以降、このフロアでは別の異変も起こっていたのだ。
それは「声」である。
 夜中、偶に〈しにてぇー、しにてぇー〉と男の悲しげな声がフロアに響く。
 件の突然死した人物の声色そっくりだ。
 が、出元は残業している社員――生きている誰かの口。
 当人は自覚しておらず、絶対に言っていないと否定する。が、確かに他の者が直に目にしている上、聞いているのだから間違いではない。
その上〈しにてぇー〉と口走った人間は、数日から二週間以内に倒れる事が分かった。
 だから先手を打つ。該当者の残業を僅かにでも減らすよう指導し、様子を見るのだ。
 倒れたり死んだりしなければそのまま残業時間を元に戻す。
 再び〈しにてぇー〉と声に出したら、一応三日ほど休ませた。そうすればまた普通に仕事が出来るようになるのだから。
 ただ、同時に何人か〈しにてぇー〉と言い出した時があるが、その時は修羅場だった。
 忙しい時期で、とてもじゃないが残業軽減や休みを取らせるなど不可能だったのである。
 その時は幸いなことにひとりが倒れただけで済んだ。

 この話をしてくれた人はその会社に五年勤めた。
 その間、三度ほど〈しにてぇー〉と口走ったと聞く。
倒れたのは、幸運にも一度だった。

新刊情報

★絶賛発売中!

社畜怪談

久田樹生、黒碕薫、佐々原史緒

パワハラに呪詛返し――弱者たちの復讐がいま始まる。
ブラックもブラックな、職場の実話怪談!

著者プロフィール

久田樹生 Tatsuki Hisada (本連載執筆者)

作家。小説から実話怪異譚まで手がける。代表作に「犬鳴村〈小説版〉」「ザンビ」「南の鬼談 九州四県怪奇巡霊」(竹書房)等。あな恐ろしや服飾系から工業系まで色々働いた経験あり。(社畜歴:25年)

黒碕 薫 Kaoru Kurosaki

小説家。『武装錬金』『るろうに剣心北海道編』(集英社/和月伸宏)のストーリー協力もしている。社畜歴はエンジニアリング会社で4年ほどだが、つらかった思い出しかない。その後外注で入ったゲーム会社はとても楽しかった。(社畜歴:4年)

佐々原 史緒 Shio Sasahara

作家。広告代理店勤務中に二人三脚漫画家の原作担当としてデビュー。2001年小説に転向。ホラー代表作は「1/2アンデッド」シリーズ(KADOKAWAファミ通文庫)。(社畜歴22年)※のべ



この記事が気に入ったら
フォローをお願いいたします。
怪談の最新情報をお届けします。

この記事のシェアはこちらから


関連記事

ページトップ