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【書評】「弩」怖い話ベストセレクション 薄葬

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3月28日発売の文庫『「弩」怖い話ベストセレクション 薄葬』の書評です。

今回のレビュアーは卯ちりさん!
早速ご覧ください!

書評

竹書房怪談文庫は昨年秋のリニューアル以降、自選集の発刊やTwitterアカウントでの既刊収録作掲載など、過去作の掘り起こしに力を注いでいるように思う。

本書もその流れを汲んだ新刊であろう。収録作は『「弩」怖い話―螺旋怪談(2004年)』、『「弩」怖い話〈2〉Home Sweet Home(2005年)』からのセレクトと不思議ナックルズ掲載の後日談、中編連作を含む計10編。ベストセレクションと銘打っているものの、15年前に発表された怪談に再度スポットを当て、小枝子という女性から伺った家にまつわる怪談連作とその顛末を核として纏められており、『「弩」怖い話』シリーズの復刻版に近い印象だ。

表紙に描かれた間取り図面には好奇心をくすぐられるが、収録作「梁のある家」「香津美の実家」「新婚の部屋」は、「弩」怖い話〈2〉発刊当初の仕様と同様に、怪異の発生した物件の間取りの再現が掲載されている。

本書のように、間取りを参照しながら家にまつわる怪談を読むアプローチでは、松原タニシによる「恐い間取り」のベストセラーが記憶に新しいが、それを既に15年前に試みていた『「弩」怖い話』は怪談シーンにおける先駆的な一冊だったのではないだろうか。事故物件から派生する怪談がトレンドとなっている昨今において、再評価されるべき「家」怪談である。

中でも「梁のある家」は、紛れもなく人死のあった事故物件怪談だ。現在ではなかなかお目にかかれない、土間付きの古い住宅の佇まいを想像しながら読み進めてほしい。

しかしながら、小枝子が体験した一連の悍ましい怪異、「三角アパート」「香津美の実家」「新婚の部屋」の3編について、これらは果たして「家」が怪異の元凶だろうか。

小枝子のその後、彼女の性格が豹変するエピソードも含め、これらは怪異の原因や因縁を把握することができないまま親戚縁者の死が連続し、解決に至っていない。怪異の因果関係が掴み難い故に、厭な話として強烈な読後感がある。

怪異の多くは宅内で発生しているものの、近親者が順番に感染するように怪異に取り込まれるという点では、住宅という磁場が直接的に怪をもたらしたわけではなく、そこで障りのあった人間との関わりや繋がりが、怪のトリガーとなっているように感じる。不特定多数に伝播する恐怖に圧倒される実話怪談でもある。

いずれにせよ、「わからない怪談」というのは、わからなさを思考し反芻することで、恐怖がより一層倍増してしまう魅力がある。既読の読者にも、未読の方にも、2020年現在の感覚で怪談を味わいつつ、怪異を再解釈する愉しみを感じていただきたい。

レビュアー

卯ちり
実話怪談の蒐集を2019年より開始。怪談最恐戦2019東京予選会にて、怪談師としてデビュー。怪談マンスリーコンテスト2020年1月期に「親孝行」で最恐賞受賞。

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