あらすじ
「天狗礫」
幼少期から何処からともなく足元に黒い小石が降ってくるという小倉南区の女性。その石の正体とは…
「だいぐれん」
八幡空襲で一家全滅したはずの隣家に国民服姿の主人が現れる。話をするうちに記憶が曖昧になって…
「黒い石」
明治期に興った淫祠邪教・蓮門教の石碑内部に隠されていた七つの石。それに触れた者は次々祟られ…
「百合野」
『残穢』に登場する奥山怪談のルーツはどこに? 凶事の前に顔がゆがむ婦人図のモデルとは…
「炭坑怪談」
炭塵爆発の犠牲者の一部や遺骨が混じった土砂の山の上に灯る怪火。そのそばを通った者が見たのは…
「待つ」
少女時代に一度だけ神懸かったことがある祖母。孫娘の名前を「祀子」にすることに拘った理由とは…
「マレビト」
田舎道を行く建物の部材を積んだ荷車を引く人夫の行列。全く関係のない3人が子供の頃に見た共通夢は…
「犬鳴御別館」
帯が絡みついてくる悪夢に魘される少女。親友に帯を預かってもらうが、箪笥の中で奇怪なことが…
著者コメント
今回は、ある怪奇事件の謎解きの構成が、図らずも整いましたので、是非最
初から順番通りにお読みになって、お楽しみ下さい 。
冒頭紹介「はじめに」
前著、『修羅ノ国 北九州怪談行』は、私なりに精一杯怪談読み物に寄せたつもりであったが、やはり竹書房怪談文庫のメインストリームからは、やや外れているせいか、概ね「期待していたほど怖くない」というような御感想を多く頂いた。
しかし、別の興味からの新規読者の方々、特に歴史に関心のある層の購入があったようで、思いの外、部数は伸びたようである。また、北部九州の書店の皆様にも御努力頂けたらしく、続刊へと繋げることができた。
ここに、改めてお礼を申し上げたい。
然るに、今回も内容的には同じような雰囲気になるかと思われるので、背筋の凍り付くような王道怪談を期待される向きには、少し傾向が違う旨をお含み置き頂きたいと思う。
その代わりと言っては何なのだが、清水崇監督による映画『犬鳴村』と、こちらも中村義洋監督の手で映画になっているが、小野不由美さんの傑作『残穢』に出てくる「北九州一の怪談」について、例のメンバーと一緒に考察とルポを行ってみた。
結果的に両者に関わる羽目になったというのが正確なところだが、詳しくは本編を御覧頂くとして、メジャーどころの裏話として是非お楽しみ頂ければ幸いである。
ただし、注意点を挙げておくと、『犬鳴村』のほうは、我々の知っている犬鳴トンネル近辺の怪談や情報が主となるのだが、『残穢』を未読の方は、かなり細かい話が出てきてそちらの興を削ぐ恐れがあるので、この本を読むのは後回しにしたほうが良いと思われる。
ここで「『残穢』ってフィクションじゃないの?」と思った方もおられるだろうが、非常によくできた虚実綯い交ぜの巨大な怪談であるせいで、現実の歴史と色々繋がってしまっているようなのである。
特に「北九州一の怪談」の部分である。つまり、炭鉱王奥山家に関する怪談。怪談ファンの間では「奥山怪談」と略されているようだが、追っていくと個人的にも興味を惹かれることが多々あった。
小野不由美さんが、これを想像だけで書いたとすると、それ自体が怪談なのだが、更に私が関わった菊姫伝説を含む『九州一の怪談』と奇妙な親和性を持っているので、前著では省いてしまったが、こちらのほうに関して念のため概略を触れておきたい。
前著もそうだったが、この菊姫伝説を主とした北九州・宗像における「非常によくできた虚実綯い交ぜの巨大な怪談」は、どうしても地元怪談を深掘りすると関わってきてしまう。
なので、簡単に纏めてみたので、本編を読み進める前に頭の隅にでも留めておいてもらいたい。
※大内義隆に謀反した陶晴賢によって、七十九代宗像大宮司(宗像氏当主)宗像氏男が自刃に追い込まれる。
七十八代宗像正氏は陶晴賢の姪との間に二子を設けており、これを擁立すれば宗像氏を乗っ取ることができる。そのため、後継者となりそうな、
・氏男の弟、千代松丸
・七十七代大宮司の宗像氏続
・氏男の正妻であり、七十八代正氏の娘である菊姫
以上の三者を陶晴賢は殺すことにする。
※前二者は執拗に追跡して殺害。菊姫については刺客を送り、天文二十一年三月二十三日、山田の屋形で、家人もろとも皆殺しにする。
これは「山田事件」と呼ばれている。
このとき殺されたのは、
・菊姫
・菊姫の母であり、七十八代宗像大宮司・正氏の妻であった、山田の君
・侍女である、花尾局、三日月、小夜、小少将
……の、女六人であった。
※陶晴賢の姪、照葉の君の長子は、宗像氏貞として八十代宗像大宮司となる。妹は色姫という名で宗像領で養育される。
※祟りが起き始め、山田事件の刺客全員と一族郎党が死滅。
※陶晴賢も宗像三女神所縁の地、厳島で毛利元就に破れ滅ぼされる。
※色姫が突然、山田の君に憑依され、母である照葉の君の喉笛に食らいつく。以後何年も色姫は狂乱の状態が続く。照葉の君は傷が癒えずやがて病没。
※怨霊の祟りは凄まじく、宗像領内で次々と死者が出る。比叡山から名僧を招請し天台の秘法(平釜で怨霊の墓を覆って祈祷する)を行うが失敗。このとき、平釜を作ったのが芦屋釜で有名な芦屋集落の職人達であったが、やがて衰退し鋳物の技術は途絶える。
※戦国期、宗像氏貞は奮戦するが、豊臣秀吉の九州平定直前に病没。秀吉によって、宗像家は廃絶される。
・この後、宗像領は朝鮮への出兵のための補給地となり、石田三成らが一時管理する。後に小早川秀秋の所領となる。
・秀吉死去後、石田三成は関ヶ原で敗れ斬首。小早川秀秋は関ヶ原の戦いの功績で加領され岡山藩主となるが、二十一歳の若さで不審死する。
・後に徳川家康の手によって、豊臣氏宗家も滅亡する。
その後のことは端折って……前著『修羅ノ国 北九州怪談行』の要諦は、心霊スポットと言われる「力丸ダム」の元凶が、ダム湖の底に沈む土地にあるのではないか、そこが宗像氏廃絶後に帰農した、宗像の家臣の人々が開拓した土地であったせいではないか、また、菊姫の怨霊は今でもその所縁の地を経巡っているのではないかということだった……。
(了)
朗読動画(怪読録Vol.77)
【竹書房怪談文庫×怪談社】でお送りする怪談語り動画です。毎月の各新刊から選んだ怖い話を人気怪談師が朗読します。
今回の語り手は 怪談社の 小森躅也 さん!
【怪読録Vol.77】終戦の年の秋、哀しい怪奇現象が…菱井十拳『羅刹ノ国 北九州怪談行』より【怖い話朗読】
商品情報
- 著者名:菱井十拳
- 発売日:2021/4/28 ※発売日は地域によって前後する場合があります。
- 定価:本体680円+税
- ISBNコード:9784801926288
- シリーズ:北九州怪談行
著者紹介
菱井十拳 Jukken Hishii
ノンフィクション作家。元漂泊の居酒屋系食レポライター、旅行家、ラーメンスープ研究家。北九州市定住後は主に石炭関連の産業遺産に興味を持ち日々探索を行う。2018年、史実を扱ったルポルタージュ怪談『怨霊黙示録 九州一の怪談』にてデビュー。近著に『修羅ノ国 北九州怪談行』がある。
シリーズ好評既刊
修羅ノ国
北九州怪談行
犬鳴トンネルとともに九州最凶と謳われる心霊スポット「力丸ダム」。そのダム湖を撮った一枚の写真に、湖上を駕籠を担いで進む行列が写っていた。この心霊写真を切っ掛けに現地を訪れた著者が辿り着いた因果の真相とは…。\\長編ルポ「力丸ダム」他、「小倉駅前のデパート」に纏わる幽霊騒動、「若松主婦殺人事件」の霊夢、伐ると祟られる「扇天満宮の大銀杏と座敷牢」の怪、福津市の謎の野獣「本木の化け物」、嘉麻市の皿屋敷に纏わる怪談など、北九州在住の著者がご当地の知られざる怪奇伝承と自身の心霊体験を綴った実話怪奇ルポルタージュ!
怨霊黙示録
九州一の怪談
大正4年「福岡日日新聞」で連載された稀代の恐怖実話――「九州一の怪談」。これは、戦国大名・宗像氏の跡目争いで、側室側が正室側を惨殺した「山田事件」を端に、殺された6人の怨霊が巻き起こしていく凄絶な祟り話の記録である。だが、この話にはまだ続きがあった…。\昭和、平成を経て、現在までに関係者300人以上が呪い殺されている日本最大級、かつ現在進行形の怨霊譚。その全貌がいま明らかに! 世界遺産「神宿る島」宗像・沖ノ島の知られざる裏歴史。九州の戦国と怨霊が、いっちゃん怖かたい!