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本日発売、夏の「超」怖い話 庚(かのえ)の舞台裏に迫る。作者3名による怪談エッセイ連載〈3匹がごにょごにょ〉2

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 というわけで、第2回。
 原田空、登場。

 えぇっ あぁ うん……。 うん?
 そんな感じ? ねぇ そんな感じで書くの? 本当? 本当に?
 判ったよ……。そんな感じで書くよ……。仕方が無い。仕方が無いねぇ……。

 仕方が無いので、松村と深澤と私の馴れ初めでも書こうと思います。
 御存じの方も居られると思うが、私達三人は『「超」怖い話』シリーズの後継者を発掘するという主旨の『超ー1』なる怪談コンテストに寄稿し、それぞれがアレがあぁなって、こうなって、三人でこうやって、コウやって、こウヤって、今、この『「超」怖い話』を書いている訳です。毎年。毎夏。えぇ――。吐き気がする。
 もう何年程経ったのでしょうか。十年? 二十年? いや、そんなには経っていないな。経つものも経たない。大体。十五年くらい前。
 前述のコンテストの後、本シリーズの四代目編著者の音頭で懇親会が催されました。
 本シリーズを牽引したいという、気がふれた紳士淑女の集いである。

 集合場所は池袋駅。東口辺り――。
 漠然としている。
 大変に田舎者の私は東京都に足を踏み入れるだけで緊張してしまう。神経が強張る。まともでは居られない。東京はこんなにも根暗な私が簡単に足を踏み入れて良い場所ではない。
 東京は怖い。東京に行くには相当な覚悟がいる。東京。東京。東キョウ。トウ京。
 何故ゆえに東京都が存在し、西京都は存在しないのか。北京都も無いし南京都も無い。何故なのか。みんな都を名乗っちゃダメなの?なんで?でもね、京都は在るんだよ。
 そんな全国民の皆様の不信不満を一心に抱えつつ、埼京線に身を揺られながら決死の覚悟で池袋駅まで辿り着き。どうにか改札口を出たものの、先ず以ってどの方向に向かうべきなのかが判らない。集合場所は東口である。方向感覚を失っている為、どちらが東なのかが判らない。東京は人間の方向感覚を奪う。
 兎に角――。
 ここは、私が田舎者だと周囲に悟られてはいけない。
 駅構内を足早に歩く人々は皆、恰好が良い。男女を問わず。年齢を問わず。
 正直、困った。大変に困った。
 此処は。この場所は――。
 私の様な思春期特有の湿った日陰でひっそりと身を育てる、自分が何者かも判らぬ菌類の様な生き物が簡単に足を踏み入れてはならない。
「東京は怖い」
 大切な事なので先程も書きましたが、二回書きました。
「東京は怖い」「東京はコわい」「東京は怖い」「トンキンコワイヨー」
 四回足しました。計六回です。
 それ程に恐ろしい場所です。東京というのは。私にとって。東京は怖い。
 これで七回書きました。とても大切な事です。
 アルファベットと数字を組み合わせた都民以外には解読不能と思われる黄色い案内板に案内されないまま、「何故にトーキョーにはこんなにも人がいるのか」「よくよく見れば、皆が皆、死んだ魚の様な眼をして歩いておる」「ウォーキングデッド?」「あれ?ワタシは何かのゾンビ映画の中に取り込まれてしまったの?」「じゃあ、どうするの?」「倒して生き残るしか選択は無いでしょ」「ヤるしかない」「早くヤれ」
 意を決し、えいやっと階段を駆け上った次第で。すると目の前に広がる人、人、人。こんなに人がたくさんいると件の懇親会の集団なんぞ見つけられないなぁ。そう思いながらぐるりと駅周辺を見渡してみれば。あ――。 たぶん……。アレだ……。
 その一団の発する雰囲気は周囲に全く溶け込んでいなかった。その異様な集団にも溶け込めず、少し距離を取ったところで立ち尽くしている、真っ黒に日焼けした白いランニングシャツを着て顎髭をたくわえた筋肉達磨のような男に私は声を掛けた。「これ、何の集まりですか?」すると男は急に挙動不審になり「あ、え、いや――。怖い話の……」外見と違い、声が小さい。どうやら男は私が集団に参加するような輩だと思っていなかったらしく「ありがとうございます」と礼を言ってその集団に加わる私を見て目を剥いていた。変な奴だな、と思った。
 懇親会場は駅から程近い居酒屋だった。確か参加者は五十名を超えていたと思う。私は四人掛けのテーブル席に腰を下ろす。先程の筋肉達磨が目の前に座った。そして金髪で長髪の女性の様に線の細い男が私の隣に腰を下ろした。
 四代目編著者が進行し、一人ずつ自己紹介のようなものをすることとなった。私は「空」と名乗った。そして金髪は「hydrogen(ハイドロゲン)」と名乗り、筋肉達磨は「ロールシャッハ」と名乗った。hydrogen(ハイドロゲン)は深澤の、ロールシャッハは松村の当時のペンネームである。

★7/28更新予定が遅れました。誠に申し訳ございません、今夜の松村進吉に続く。

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「超」怖い話 庚(かのえ)

松村進吉 編著
深澤夜、原田空 共著

かつてない混迷の中にある今夏、とんでもなく濃密な怪談が3人の元に集まった。
否、託されたと言うべきか。
漁村の怖ろしき禁忌譚ほか、怪談沼の深みに首までつかりたい愉悦の32話‼

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