【日々怪談】2021年8月16日の怖い話~盆体質 京都編
【今日は何の日?】8月16日:月遅れ盆送り火
盆体質 京都編
寺田君は関西出身。大学時代は京都ですごした。
寺田君が大学三年のとき、「上京して京都ですごして七年目」という、七回生になる年上の友人がいた。
その年の盆休み、他の仲間は皆帰省してしまったのだが、彼らはいろいろあって帰省しなかった。
「ま、残ったもん同士でやろうや」
二人は鴨川の近くで飲んだくれた。
店を出て、夜風に当たりながら鴨川の畔を歩いていると、七回生は急に足を止めた。
「うわっ、なんやあれ!」
「なに? なに見えんのん?」
寺田君は七回生の視線の先を追った。
鴨川の畔にあるベンチ。
そこには、隙間なくびっしりとカップルが座っている。
それだけだ。
「どないしたん? エッチでもしてるカップルでもおった?」
期待しためぼしいものを見つけられない寺田君は、七回生の肩を揺らした。
七回生はしばらく無言でいたが、絞りだすように言った。
「……いや、なんでもない。すまん」
足早に歩く七回生の後を追うように鴨川の畔を抜け、五条にある彼のマンションになだれ込んだ。
酔いが覚めてしまったので飲み直そう、と再び酒を呷りながら訊いた。
「さっきの鴨川のアレ、何やったん?」
「うーん、盆やからなあ。俺、見えてまうねん」
「見えるて、何が」
「京都いうたら前の戦争(応仁の乱)以来、いっぱい人死んでるやんか。せやから見えてまうねん。死んだはる人が」
「死んだはる人て、幽霊か」
「まあ、そんなんやな。鴨川の辺りなんか凄いで。もう原形とどめてない死体がゴロゴロおんねや。酔うて忘れとった。これやから、この時期の京都はいとぉないねん」
「それゆうたら、さっきのも死体とか?」
「さっき? ああ、あのカップルな。あれはまだええほうやわ。カップルの膝の上で生首が転がってただけやで」
――「盆体質 京都編」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』より
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