竹書房怪談文庫 > 怪談NEWS > 怪談エッセイ > 【怪談エッセイ連載】3匹がごにょごにょ(松村進吉、深澤夜、原田空) > まもなく発売、夏の「超」怖い話 庚(かのえ)の舞台裏に迫る。作者3名による怪談エッセイ連載〈3匹がごにょごにょ〉がスタート!

まもなく発売、夏の「超」怖い話 庚(かのえ)の舞台裏に迫る。作者3名による怪談エッセイ連載〈3匹がごにょごにょ〉がスタート!

Pocket

5代目編著者・松村進吉を筆頭に、深澤夜原田空の3人で執筆をつづける老舗実話怪談シリーズ「超」怖い話・夏。このうち深澤は、冬の「超」怖い話や恐怖箱アンソロジーにも顔を出しているものの、松村と原田にいたっては年に1回、この7月の終わりにのみ怪談文庫に浮上してくるなかなかレアな存在である。

この3人で「超」怖い話の夏を担い始めて、今年ではや4年。もう少し素性を知られてもよいのではあるまいか。いまだ謎の多い3人の関係に迫りつつ、次の夏までの間を彼らがどう過ごし、どのようにその手元に怪談が集まっていくのか、「超」怖い話・夏の舞台裏を1年をかけて追っていきたいと思う。

まずは7/29に発売となる新刊『「超」怖い話 庚(かのえ)の発売を記念して、本日より6夜連続でリレーエッセイをお届けする。その後、8/6から毎週木曜日に深澤→原田→松村の順で怪奇な日々を綴っていく予定である。ちなみに4週目以降の木曜日はお休みをいただく。第1、第2、第3木曜日配信とお見知りおきいただきたい。

第1回は、深澤夜。
それではどうぞ――

 二年くらい前ですか。
 台風が東京を直撃した七月の終わりごろ、七月二十八日だったと思います。
 この日ちょっと用事があって、朝から強まる風雨の中を千葉まで行って、午後急いで東京に飛んで返すと――あの男がいたのです。
 ドーンと。
 実話怪談界を支える重鎮。松っちゃんこと松村進吉氏が。
『嵐を呼ぶ男ぞ ガハハ』と先週にチャットで仰った通り、嵐を連れてきたわけです。
 聞けば軍用機を二、三機奪って東京まで来たんだとか。すごいなぁ。
 我らが大恩人、竹書房のOさんもいらっしゃいました。
 食事でもどうですかと言うと、朝から牛を一頭シメたとのことなので、じゃあ珈琲でも、と新宿の椿屋珈琲に入りました。
 珈琲とケーキのおいしい、御給仕の方の制服の可愛いあのお店です。
 僕は大体新宿でレイトショーを観ると椿屋で朝まで反省会をしています。
 この日、大変残念なことに空っちこと原田空氏は欠席でした。
 この日は「超」怖い話・戊の発売日、概ね発売日ということもあり、街は怖い話を、ひいては松村怪談、原田怪談を求める人々でごった返していました。
 となれば、我らからすると締め切りを乗り越えていたということでもあります。
 一年で一番気の大きくなる日。
 イタリアン・マフィアよろしくエスプレッソをクィーッとやったまでは良かった。
 厳しい話もするが~と、言外に匂わせた女神Oさんから熱いお叱りを受け、気が付くと我々は縮こまっておりました。
 Oさんの激励、そして檄に晒されるうち我々は「はい、すみません」としか言えなくなって、ふと横を見ると松ちゃんも心なしか小さく、色白になった気がします。
「珈琲、お代わりいかがですか?」
「あ、アメリカンお願いします」
 僕も元々薄い影がどんどん薄まって、キャラだけじゃなくて珈琲まで薄くなってゆく。
 反省しました。
 それは要するに頑張って本を皆さんにお届けしましょうね、というその覚悟の話です。
 この本はいい本だから、自信をもって宣伝するぞ、と。
 その場は「来年は二週間早く原稿を出すように」と言質をとられ、クビにはならず済みました。

 そして今年。
 怪談観のひとつも打って見せよ、と大役を仰せつかったわけですが、何分もう紙面に残りが少ない次第で。
 強いて言うと最近、怪談に対する姿勢が良くなったと申しますか。
「これを皆に伝えるんだぞ」と、その一点において、自分が何をすべきかは迷いがあんまりない。まったくないわけでもないんですけど。
 周りを見てみると、松ちゃんも空っちも確たるシグネチャをお持ちだ。
 敢えて論うまでもなく、パッと読んですぐに誰が書いたかわかる。それはネタがどうとか文章の癖とかじゃなくて、怪談との向き合い方でしょうか。
 キャラも濃い。
 僕にはそういうシグネチャはないけど、気にも病まず間に収まっていられるのは、お二人を信頼しているからであります。

 ちなみに松ちゃんですが、その日帰りの飛行機は台風で二便欠便になったそうです。
 さすが――持っている。

★明日7/28、原田空に続く。

★7/29発売予定

「超」怖い話 庚(かのえ)

松村進吉 編著
深澤夜、原田空 共著

かつてない混迷の中にある今夏、とんでもなく濃密な怪談が3人の元に集まった。
否、託されたと言うべきか。
漁村の怖ろしき禁忌譚ほか、怪談沼の深みに首までつかりたい愉悦の32話‼

この記事が気に入ったら
フォローをお願いいたします。
怪談の最新情報をお届けします。

この記事のシェアはこちらから


関連記事

ページトップ