本日発売、夏の「超」怖い話 庚(かのえ)の舞台裏に迫る。作者3名による怪談エッセイ連載〈3匹がごにょごにょ〉3
お待たせいたしました、第3回。
ラスボス、登場。
五代目編著者・松村進吉が語る「超」怖い話のこれから……
まずは落ち着いて頂きたいのである。
夜も空も、ひとまず落ち着いて深呼吸をするべきである。
確かにこれは、怪談話を連載しようという企画ではない。
そういう企画ではないのだが、では何だ、全体何が始まったのだと読者諸氏に訊かれた時、しどろもどろになってしまうようでは、ちょっと格好がつかない。
我々も一種の人気商売であるから、どうせならこの「自由に書いてよい」とお任せ頂いた場を活用することで、ひとりでも多くの方に拙著をお読み頂けるよう、工夫し、知恵を絞ってゆく必要がある。
これが我々の目標であり、大前提である。
さてその上で、何の話をするかという問題になる訳だが、夜は「近年の我々」、空は「我々のなれそめ」について書き始めたようなので、自分もそれに呼応する切り口を考案しなければならない。
夜は『「超」怖い話』の冬班も兼務しているから、今後、その辺りの話も出てくるだろう。空は執筆活動から離れていた期間があり、彼の頭の中には「あの頃の我々」が、タイムカプセルのように保存されている。
つまり現在と過去、このふたつの側面が、両者によってこれから語られてゆくと見てよい。そうなると、自分は何を書けばよいのか。
――特に無いのである。
特に無いのであるが、「特にありませんでした」では文字どおりお話にならない上、こいつはもう駄目かも知れない、残念ながら脳味噌が溶けたらしいという評価が下され、今後の仕事に差し障りが生じてしまう。それは避けたい。
こんな虚無も同然の文章を延々と書き連ねていてはいけない。
自分としても、何かを書き、皆さんにお読み頂きたいという気持ちはあるのだ。
よって私は、「未来」の話をしようと思う。
「『超』怖い話」の、未来について書きたい。
これはけだし名案なのではなかろうか。
なにせ未だ存在しないものについて話すのだから、何でも好き勝手に言い放題。
夢を描くのは自由と言うし、何より、未来の話をするのは前向きなイメージがある。
怪談屋が前向きというのもどことなし違和感はあるが、後ろ向きよりは良いだろう。
人間の顔というのは、前を見るようについている。
我々『「超」怖い話』の夏班は、一年中お化けの事ばかり考えている訳ではなく、どちらかというとやや不真面目な部類で、基本的には喋れば喋るほどボロが出てしまう面がある。ましてや私は正直な話、幽霊とか怖いのであんまり好きではない。
毎年毎年、大変に消耗する。
怪談というものが、「怪異の輪郭」を描き出すものだとするならば、本稿では更にその「輪郭の輪郭」をぺたぺた触り、「こんな感じがええんちゃう……?」と尤もらしい顔で述べてゆくことにすれば、間接の間接なので、私が感じる怖さもだいぶ軽減されよう。
やっと夏の本が書けたばかりなのに、また怖い思いをさせられるのは御免だ。
先般も、脱稿直後に「うちの会社に、元自衛官の人が入りましてね」と話を持って来てくれた人があった。
「硫黄島で働いてたらしいんですよ。あそこ、話には聞きますけど本当に〈そういう場所〉らしいですねぇ」
「ああ、そうなんですか……」
「なんでも、訓練中のヘリコプターが海に墜落したそうでね。みんなで捜索したんだけど見つからなくて。夜になっちゃって、一旦みんな体育館に集まったらしいんです」
「はい……」
「そしたらね急に、ガラガラッと戸を開けて、びしょ濡れの隊員が入って来たんですって。墜落した隊員ですよ。えーっ、お前無事だったのか! ってみんなビックリして、ワーッと駆け寄ったそうなんですけど」
「ええ」
「スッ、と消えたそうです。みんなの前で。だから、何十人もの隊員が一斉に、同時に、それを見た。……後日、その隊員の遺体も引き上げられたそうです」
「うわぁ……」
とまあ、始終こんな具合に怪談話が寄せられるものだから、私は――あっ。
違う。
次回から、未来の話をします。
では、また……。
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深澤夜、原田空 共著
かつてない混迷の中にある今夏、とんでもなく濃密な怪談が3人の元に集まった。
否、託されたと言うべきか。
漁村の怖ろしき禁忌譚ほか、怪談沼の深みに首までつかりたい愉悦の32話‼