服部義史の北の闇から~第16話 来訪者~
初冬のある日、玉木さんは部屋の換気をしようと窓を開けた。
冷え切った風が勢いよく吹き込み、思わずブルッと身体を震わせる。
(今日も寒いなぁ……)
いつも大体、十分程開けたままの状態にして、空気を入れ替えた後で窓を閉める。
その間は炬燵に潜り込み、暖を取るのが習慣となっていた。
(もう、いいかな)
炬燵から出て、開けた窓を順番に閉めていく。
最後の窓を閉めようとしていた手が予想外の光景で動けなくなった。
――窓の桟を乗り越えるようにして、小さな人が部屋の中に入りこもうとしていたのだ。
(はい?)
その小さな人は窓桟から飛び降りると、音もなく室内に着地した。
玉木さんは我が目を疑いながら、小人の動きを追う。
大きさな十センチもあるのだろうか。
縦横無尽に室内を走り回っている為、正確な大きさは掴めない。
服……といえる物も細かい縫製はよく分からないが、上下ともに綺麗なスカイブルーをしていて、パーカーのような帽子がついていることだけは分かった。
(疲れているんだろうか?)
玉木さんは瞼を指でマッサージし、再度確認するが、相も変わらず小人は走り回っていた。
(夢……じゃない)
状況を理解できないまま、ただただ小人を目で追うことしかできないでいた。
――シュッ
突然、小人は勢いよく炬燵の中に入りこんでいった。
暫くそのまま待ち続けているが、一向に出てくる気配がない。
様子を確認しようと、恐る恐る炬燵布団を捲り上げ、中の確認をする。
しかし、炬燵の中に小人の姿は無かった。
もしかしたら炬燵布団の何処かに隠れているのかもと、玉木さんは自らの頭を炬燵の中に突っ込み、慎重に布団をずらしてみる。
その瞬間、全身に衝撃が走った。
まるで雷にでも打たれたような、痺れを伴う痛み。
(これは、あれだ……)
玉木さんは炬燵の不具合で感電したのだと思いながら、意識が遠退いていった。
どのくらい気絶していたのかは分からないが、炬燵に頭を突っ込んだ状態で意識を取り戻す。
状況が分からないまま起き上がろうとしたので、思いっきり頭をぶつけてしまった。
「結局、あの小人は見つからないままでした」
それ以降、同じ小人を見ることはないが、玉木さんの中で変化があったことがあるという。
これまでの人生では宝くじなどを一度も買ったことがないのだが、売り場を見かけると立ち寄るようになったという。
その時に〈あの小人の姿〉が頭に浮かぶと、スクラッチくじを購入する。
結果、少額当選金が必ず当たり、小遣い稼ぎができているらしい。
「映像が浮かばないと買う気になれないんです。他のくじもあるんですが、何故かスクラッチしか買えないというのも意味不明ですが……」
玉木さんの中では、あの小人はコロポックル的な福の神だと認識されている。
そして、適度な金額で終わることも、変な欲が湧き上がらないのも、小人のお陰だと信じている。
「人生が狂うって聞くでしょ? だから、このくらいが一番いいんです」
そう笑う玉木さんは、実に幸せそうであった。
著者プロフィール
服部義史 Yoshifumi Hattori
北海道出身、札幌在住。幼少期にオカルトに触れ、その世界観に魅了される。全道の心霊スポット探訪、怪異歴訪家を経て、道内の心霊小冊子などで覆面ライターを務める。現地取材数はこれまでに8000件を超える。著書に「蝦夷忌譚 北怪導」「恐怖実話 北怪道」、その他「恐怖箱」アンソロジーへの共著多数。
★「北の闇から」は隔週金曜日更新です。
次回の更新は1/1(金)を予定しております。どうぞお楽しみに!
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