見知らぬ相手から言われた言葉“居心地が良さそう”とは一体どういう意味?…実話怪談連載「服部義史の北の闇から」第18話 居心地
ある日のこと、木村さんの携帯が鳴った。
見覚えのない番号ではあるが、一応出てみる。
若干のノイズに混じり、ぼそぼそとした声が聞こえる。
「もしもし? もしもーし」
いくら呼び掛けても、ハッキリとした言葉が聞き取れない。
「聞こえないので切りますよー」
いたずら電話という感じではなかったが、用件が全く分からない以上は仕方がない。
大事な要件ならまた掛け直してくるだろう、とその電話のことはすっかり忘れていた。
その夜、自宅で食事をしているとまた携帯が鳴った。
また見覚えのない番号からである。
出てみると、今度は全くの無音である。
いくら呼び掛けようとも、静かなままであった。
(今度はいたずら? いや、通信障害のようなもんか?)
「聞こえないから切りますよー」
性格上、一応、断りを入れてから通話を切る。
食事を終えてふと一息つくと、日中の電話のことを思い出した。
(あれ、もしかして俺の携帯がおかしいのか?)
そう考えると合点がいく。
昨日までは何でもなかったが、機械の故障なんて突然起きてもおかしくはない。
見慣れない番号であったが、もしかしたらデータ表示的な問題で、知り合いや取引先であった可能性もある。
慌てて着信履歴をかくにんしてみると、その二件の表示だけがない。
しかし、他の番号は履歴として残っている。
(その時だけ、何かの異常が起きたとか?)
そんなことを考えていると、丁度着信が入った。
またもや見知らぬ番号からである。
「もしもし……」
一瞬の間を置き、野太い男の声が聞こえた。
「どうも、こんばんわ」
「えっ? どちらさんでしょうか?」
木村さんがその言葉を発した瞬間、目の前にスーツ姿の中年男性が立っていた。
「初めまして、いや、居心地が良さそうだなと思いまして」
携帯からはそう言葉が聞こえてくる。
そして、目の前の男は言葉を発しているように口は動いているのだが、一切の声は聞こえてこない。
「って、お前は誰なんだよ!」
思わず木村さんは身構えながらも、目の前にいる男を威嚇する。
しかし、男は口をパクパクと動かすだけで、直立の体勢を変えようともしない。
「ふ、ざ、けんな!!」
怒りの感情のまま男に殴りかかってみるが、木村さんの拳は擦り抜けてしまう。
「はぁ?」
直ぐに体勢を立て直し、ボクシングの構えをするが、男は変わらずに口をパクパクと動かすだけであった。
そこでハッと気が付く。
少し距離感を保ち、携帯を耳に当ててみる。
「……からぁ、そんなことは無駄ですって。居心地が良さそうだから、憑いてきたんですって」
「ふざけんな、出ていけ!」
「嫌です」
「出て行けって!!」
「嫌です」
「お前、本気でぶっ飛ばすぞ!」
「無理です」
木村さん自体も完全に状況を理解などはしていないが、霊との通話で威嚇を続けた。
不毛なやり取りが五分程続いた後、何かの言葉が霊を怒らせたらしい。
「舐めないでください」
そう男が電話越しに言った瞬間、電池パックが破裂した。
「痛ってぇ……」
左掌に衝撃が走り、堪らず木村さんは蹲った。
すぐに我に返り、男の姿を探すも、完全に消え失せてしまっていた。
「携帯は完全に壊れていました。画面にも細かい皹が入りまくっていましたし」
それ以降、新しくした端末に、見知らぬ番号からの着信は一度もない。
「気になっているのは『居心地が良さそう』って言葉です。男の姿を見ることはないが、ふとした瞬間に人の気配を感じたりすることがあるので」
解決になるのかどうかは分からないが、現在、木村さんは引っ越しを考えている。
著者プロフィール
服部義史 Yoshifumi Hattori
北海道出身、札幌在住。幼少期にオカルトに触れ、その世界観に魅了される。全道の心霊スポット探訪、怪異歴訪家を経て、道内の心霊小冊子などで覆面ライターを務める。現地取材数はこれまでに8000件を超える。著書に「蝦夷忌譚 北怪導」「恐怖実話 北怪道」、その他「恐怖箱」アンソロジーへの共著多数。
★ 「北の闇から」は 北海道在住の著者がお届けするしばれる怖い話。地元で採話した実話怪談、本当にあった怪奇・不思議譚を綴ってまいります。隔週金曜日更新。
次回の更新は1/29(金)を予定しております。どうぞお楽しみに!
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