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2月新刊『信州怪談』内容紹介・著者コメント・試し読み・朗読動画

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松本在住の著者が徹底取材、長野で今も起きている怖い話!

〈奇譚百物語〉シリーズの丸山政也が地元長野県の怖い話を纏めた実話怪談集!

心霊譚が絶えない長野市のホテル
善光寺に巣食う妖しい怪異の数々
死者に呼ばれる軽井沢大橋
車中に何かが乗り込む碓氷峠
小岩嶽城址の怨霊武士
菅平高原の首なしラガーマン

――など身も凍る恐怖体験談に加え怖い民話も数多く収録!
伝承の宝庫・信濃には恐ろしい場所が数多く存在する…

無料で読める怪談話や怪談イベント情報を更新しています

あらすじ

「借家」(松本市)

市郊外にある築50年ほどの古い一軒家で夜な夜な怪しい物音が…。そしておぞましい異形の姿を目撃してしまう!

「レンズの女」(長野市)

市内のビジネスホテルにて。気配を感じてドアスコープを覗くと、居るはずのないおんなが…

「猿の怪話」(信州各地)

観光地・木曽路の外れで、栗の実を投げつける不気味な猿に出遭い、導かれた先で驚愕の光景が…!他2篇

「半過岩鼻」(上田市)

自殺の名所と名高い景勝地の断崖。下から見上げていると、この世の者とは思えぬ存在が目に入り…

「南原橋」(飯田市)

天竜川の舟下りの最中、名勝・鵞流峡にさしかかり頭上に架かる橋を見やると、恐ろしい怪異が!

「分杭峠」(伊那市)

ゼロ磁場として知られる日本有数のパワースポットで撮れた、不可思議な心霊写真。そこに写っていたのは…

「池に浮かぶもの」(岡谷市)

地元の神社の池に浮かぶ気味の悪いモノ――。のちに調べるとこの地で起きた酸鼻を極める事件が明らかに!

「御嶽山」(木曽郡)

登山者が忽然と消える!? 2014年の噴火で多くの犠牲者を出したことで知られる霊峰に伝わる怪奇譚!

著者自薦・試し読み1話

ガラス窓

 飯田市に住むK子さんが、亡くなった祖母から生前に聞かされた話だという。

 K子さんの祖母――F代さんが二十歳の頃だったというので、今から七十数年前のこと。

 ある日、F代さんは母親から使いを頼まれて市街地に向けて歩いていた。その途中、一軒の粗末な家の前を通り掛かったとたん、ぞくりと寒気がした。

 なぜだかわからないが、気持ちが悪くて仕方がない。

 そこは弟の親友の家だったが、どうしてそんなふうに感じるのか理由がわからない。

 が、数歩進んだところで、その訳がはっきりとした。

 格子の嵌ったガラス窓に、その家の、おそらく主人とおぼしき中年の男の顔が映っていて、こちらのほうをじっと見つめているのだ。

 だが、その顔がなんとも妙だった。家のなかから外のほうを眺めているのだが、顔のサイズが普通の人間の三倍とも五倍とも思われるほど大きいのである。それに窓に入っているのは、すりガラスなのだから、こんなふうにはっきりと見えるはずがないのだ。

 気味が悪かったが、急いでいたこともあって、そう深くは考えなかったという。だが、じっと見つめられているようで厭わしく感じ、走るようにして目的の場所に向かった。

 帰途は違う道を通って帰ったそうである。

 その日の夜、弟に昼間の出来事を話すと、最初のうちは訝しげな顔でそれを聞いていたが、最後には笑いながら、

「そんなわけないさ。だって、あいつの親父さんは大腸カタルを患って入院しているんだもの。きっと姉さんの見間違いだよ」

 と、そんなふうにいった。

「だとしたら、あなたの友達だったのかしら」

 F代さんがそういうと、今日の昼間は一緒に川へ釣りに行っていたので、友人の家には母親か妹しかいなかったはずだという。

 気のせいだったのかと、すっかりそのことは忘れていたが、五日ほど経った頃、入院していたという友人の父親の容態が急変し、亡くなったことを弟が告げてきた。その刹那、あの日、例の家の前でなったようにF代さんは烈しい悪寒に襲われて、なんともいえない不穏なものを感じたのだという。

 ところが、それだけでは終わらなかった。

 二ヶ月ほど経った頃、再びF代さんは例の家の前を通りかかったが、なるべく見ないようにして通り過ぎてしまおうと思っていた。ところが、前のときと同じようにガラス窓から強い視線を感じる。

 見ないようにしようと思うほど、眼がそちらのほうに向いてしまう。ちらりと窓のほうを見てしまった瞬間、きゃっ、と知らず声が漏れ出た。

 その家の妻とおぼしき、やつれ果てた女の、またしても異様に大きな顔がすりガラスのうえに鮮やかに浮かんでいる。

 あのときと同じように瞬きもせず、紙幣の肖像画のようにじっとF代さんのことを見つめているので、思わず怖くなって駆け出した。

 弟が学校から帰ってくるなり、そのことを話してみると、俄かに蒼い顔になって、

「あいつのお袋さん、昨日亡くなってしまったそうだよ。親父さんのことで心労が祟ったのか、台所で首を吊っちまったって」

 そうだとしたら、わたしが見たものは、いったいなんだったんだろうね――。

 祖母はゆっくりと思い出すように、K子さんにそんなことを話したそうだ。

 窓に映った顔を最後に見た日から、ちょうど半年経った昭和二十二年(一九四七年)四月に飯田市の中心部で火災が起きた。

 城下町として発展したことで家々が密集しているのと、初期の消火活動に失敗したことで商店街など約六十万平米が焼けてしまう大惨事となったが、そのときに件の家も焼失したという。

著者コメント

近年、信州は移住先として人気で、2020年度地方移住先ランキング(認定NPO法人ふるさと回帰支援センター調べ)で一位だという。それも三年連続とのことである。

おそらくは都市部と田舎が共存していること、また首都圏へのアクセスが容易であること、各自治体が移住者支援に手厚いことなどがその理由だろう。移住といわずとも軽井沢や蓼科などにセカンドハウスを持つひとも増えている。県域が広いのも特徴で、北信には善光寺や戸隠神社、中信には松本城や穂高神社、南信には諏訪大社など由緒ある名刹も多い。

なんだかこう書くといいことばかりのようだが、災害史や犯罪史を紐解くと、噴火や地震などで甚大な被害に見舞われた過去や幾度も血塗られた惨劇の舞台となっていることに気づく。県土が広ければ、それだけ様々なことが起こりやすいともいえるのだ。本書は一般的な旅行ガイドブックでは知りえない、そういった信州の暗部にも光を当てている。

朗読動画(怪読録Vol.71)

【竹書房怪談文庫×怪談社】でお送りする怪談語り動画です。毎月の各新刊から選んだ怖い話を人気怪談師が朗読します。

今回の語り手は 牛抱せん夏さん&上間月貴さん!

【怪読録Vol.71】長野県最恐の心霊スポット・軽井沢大橋で起きた怪とは…⁉――丸山政也『信州怪談』より【怖い話朗読】

https://youtu.be/zztAgPiLqHY

商品情報

  • 書名:信州怪談
  • 著者名:丸山政也
  • 発売日:2021/2/27 ※発売日は地域によって前後する場合があります。
  • 定価:本体680円+税
  • ISBNコード:9784801925595
  • シリーズ:ご当地怪談

著者紹介

丸山政也  Masaya Maruyama

2011年「もうひとりのダイアナ」で第3回『幽』怪談実話コンテスト大賞受賞。「奇譚百物語」シリーズ、『怪談実話 死神は招くよ』『恐怖実話 奇想怪談』など。共著に『エモ怖』「てのひら怪談」「みちのく怪談」「瞬殺怪談」各シリーズ、『怪談四十九夜 鬼気』『怪談実話コンテスト傑作選3 跫音』『怪談五色 破戒』『世にも怖い実話怪談』など。

↑地元の新聞でも取り上げられました

丸山政也作品 好評既刊 

エモ怖

松村進吉、丸山政也、鳴崎朝寝

恐怖で震えるより、静かに心を震わせる怪談があってもいいのではないか。長年の取材でそうした体験談こそ、いつまでも心に残って忘れられないんです――「超」怖い話の松村進吉の一言で始まったこの企画に、奇譚百物語の丸山政也、注目の新人・鳴崎朝寝が賛同。「言い知れない切なさ」「甘さのにじむ寂しさ」「後悔の残るしあわせ」「幸福なあきらめ」一筋縄ではゆかない感情があふれ出す実話怪談。生と死の交わる繊細な世界観の装画は、YOASOBI「夜に駆ける」のMVを手掛ける藍にいな。心に残る1話がきっと見つかる全て実話のエモ怖い話。

奇譚百物語 鳥葬

丸山政也

世界各地に散らばる多様な怪談奇談を蒐集する丸山政也の百物語シリーズ最新刊!著名な観光地で視た居るはずのない怪人物の正体…「落水荘」(7話)、白昼の公園で目撃した凄惨な光景…「鳥葬」(15話)、旅先で友人が唐突に発したフランス語、その恐ろしい意味とは…「寝言」(26話)、憎しみの果てにおこなった悍ましい行為の因果…「ダーツボード」(54話)、失踪した妻の霊が現れる隣家に隠された恐ろしい秘密…「紫陽花の咲く家」(75話)、異国の片隅で身に降りかかった奇妙な心霊体験…「モニュメント」(96話)――など群がる怪異99話を収録!

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