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【書評】方違異談 現代雨月物語

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4月27日発売の文庫『方違異談 現代雨月物語』の書評です。

今回のレビュアーは卯ちりさん!
早速ご覧ください!

書評

怪談ではなく、異談。幽霊ではなく、妖かし。

怪談文庫初単著となる籠三蔵の実話怪談は、「怪」よりも「魔」と言うべきか。心霊のみならず、神仏、呪術、憑き物等、常人では出会うことが希な「信じ難い話」について、取材やフィールドワークの最中で遭遇した体験も含めて生々しく描き出す趣向は、昨今の実話怪談の潮流に於いては、やや異色のアプローチかもしれない。

本書の冒頭、神仏に纏わる3編を読んだ時点で、「何事もお見通し」の神仏に対する畏れを刷り込まれ、そのまま一気に最後まで、霊威に満ちた異談の世界に引き込まれてしまう一冊である。

中でも、拝み屋が代々継承していた使役神が数奇な運命を語る「約束」や、くだぎつねの幼生と思わしき「黒蟠虫」などは、伝承上の存在についての稀有な証言でもある。心霊体験として括り切れない、これら異形は怪談取材で容易に出会える話ではないだろう。

また、「白狼」「御仮屋」「御眷属拝借」の3編は、秩父三峯神社で信仰される「狼」の存在を存分に感じさせるエピソードだ。今でこそ日本有数のパワースポットとして混雑を極める場所なだけに、霊験あらたかな話をいくつも知ることができるのは、この上なく好奇心をそそられる。著者が狼信仰に精通しているが故の体験とも言えるが、多くの信じ難い異談の蒐集と編纂が可能なのは、ひとえに筆者の精力的なフィールドワークの積み重ね、知識や人脈によるものであろう。

それにしても、本書の異談の提供者たちは、揃いも揃って強烈である。〈妖かし〉が視える、拝み屋の補佐的な仕事を請け負う学生。霊感体質なオカルティスト。民族資料館の学芸員。神獣画家。それぞれの体験者は複数の話を提供しているが、どれもその人ならではと言えばいいのだろうか、提供された体験者の職業や霊感に準じた、個性的な話に思えた。誰もが体験しうる可能性を秘めた実話怪談のカジュアルさと比べると、霊力の強い体験者への共感が薄い故に、それらの話に対して、とっつきにくさはあるかもしれない。しかし、取材時の会話や独特の空気感や怪異に至るまでの一部始終を、絶妙な塩梅で盛り込んでいるのもまた本書の特徴である。霊感のない我々は、ふとした瞬間にありえざる怪を目撃する瞬間が訪れることを恐れるが、その目撃が当たり前の、霊感の強い人間が抱く恐怖心や苦労について、臨場感をもって感じられるのが面白い。信じられないモノの存在を暴き、視えざるものを読ませてくれる。怪談本の醍醐味に応えてくれる一冊だ。

レビュアー

卯ちり
実話怪談の蒐集を2019年より開始。怪談最恐戦2019東京予選会にて、怪談師としてデビュー。怪談マンスリーコンテスト2020年1月期に「親孝行」で最恐賞受賞。

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