【日々怪談】2021年5月3日の怖い話~変わらない吸引力
【今日は何の日?】5月3日: ごみの日
変わらない吸引力
石井さんは片付けられない人だ。
食べ終わったコンビニ弁当のパッケージも、そのまま買ってきた袋に入れて口を縛って放り投げておく。開けた缶詰も洗わずにそのまま放置。使った靴下も洗わずに放置。食器は食べカスがこびりついたまま流しに積み重なっている。
溜まる宅配チラシの類もそのままである。
さすがに片付けなくてはまずいかと、ゴミを拾い集めて袋に詰めてみても、そのゴミ袋を収集日にゴミ捨て場に持っていくことができない。台所からベッドの上まで、とにかくゴミが散乱している。
こうなるともう病気である。
服はまだ新しいのを買ってくれば何とか過ごせる。しかし、部屋自体から生ゴミの腐った臭いが取れなくなってきていた。住んでいる石井さんは特に気にしていなくても、友人達は臭い臭いと部屋に近寄らなくなった。
そうなると人目もないので、さらに散らかり放題の汚れ放題である。テレビで放映されるような汚部屋の住人へと一直線だ。
ある日、会社から帰ってくると、部屋がすっかり綺麗になっていた。しかも必要なものは消えておらず、ゴミだけがなくなっていた。
通帳も印鑑も無事だった。貴重品には何一つ手が付けられていなかった。
誰がこんなことをしてくれたのか。泥棒か? いや、そんな親切な泥棒がいるものか。
世の中には親切な人もいるものだな。
余り深く考えることは止めることにした。
綺麗な部屋で快適に過ごし始めたが、別段生活スタイルを変えた訳ではないので、ひと月も経たないうちに汚部屋に戻ってしまった。
ある晩、会社から少し早めに帰ると、部屋の中からフォーンという掃除機のような音が響いている。
誰かが部屋に掃除機をかけているのだ。
音を立てないようにして、こっそりと覗き見た。
天井まである巨大な鼻が、ゴミ袋を次々と鼻の穴に吸い込んでいた。
――「変わらない吸引力」神沼三平太『恐怖箱 百舌』より
#ヒビカイ # ごみの日