【日々怪談】2021年5月28日の怖い話~電柱
【今日は何の日?】5月28日:電柱広告が始まった日
電柱
矢部は気持ちよく酒が回っていた。
ちょっとビールを飲みすぎたせいだろうか。
駅を出て、とっくに終バスの終わった路地をふらふらと歩くうち、尿意を催した。
「……うぃー、小便小便っと」
路地の脇にある手頃な電柱の陰でジッパーを下ろす。
一度始めるとなかなか止まらないもので、こんなに溜まっていたかと酔った頭で自分の尿の量に感心していると、不意に背後から肩を叩かれた。
知り合いか? それとも警官か?
「ほえ?」
叩かれた肩越しに振り向くが、そこには誰もいない。
――びびょぉん。
風が空を切るような、何かがしなるような音が夜更けの住宅街に響いた。
「あえ?」
音のした方を見あげると、頭上の電線がもの凄い勢いで揺れている。
まるで、誰かが電線に飛び乗り、その上を走っていったかのようだった。
小便は止まらなかったが、矢部はそのままダッシュで逃げた。
――「 電柱」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』より