昨年9月にネット上で開催されたVRイベント「バーチャルマーケット3」にて、謎の女の目撃報告がいくつかあった。プログラムで自在に作成されるVRの世界で謎の女? プログラムの世界にいったいどんな謎があるというのか? 本記事ではその「謎」に迫り、進化する怪異の現在を紐解く。
■電気と怪異
電気と怪異の関係について諸説あるものの、ほとんどのオカルト愛好家はその関係性が密接であることに疑いを持たないであろう。
怪談の中では、停電、急激にバッテリーが減るカメラや携帯電話、電子機器の不具合など言うならば「あるある」と呼べる電気に纏わった現象が多々ある。
中田秀夫監督作品の映画「リング」(1998年)ではテレビ、ビデオテープという家電がストーリーの中で重要なガジェットとして扱われ、同じく黒沢清監督作品「回路」(2001年)でもパソコンやインターネットというシステムが怪異の拡散を呼ぶ引き金の一つとして利用されている。
イギリスのSF作家クリストファー・プリーストの小説「奇術師」では、今は当然のように科学の結晶と認識されている「電気」の仕組みそのものが、いかにもオカルティックな現象として描写された。同書を原作にクリストファー・ノーラン監督がメガホンを取った「プレステージ」における、故デビッド・ボウイ扮するニコラ・テスラの佇まいも、どこかオカルト染みて見える。
今ではオカルトの分野で取り扱われている怪異というものに科学的な裏付けが取れたら、それは恐らくサイエンスとして扱われるのである。
■Vケット3に現れた鳩羽つぐ
さて、ここまでが前置きだ。
ついに電気=怪異の関係はここまで来たという最新版を紹介したい。
記事▶「バーチャルマーケット3」のあるエリアに鳩羽つぐが現れる? 目撃例もーMoguLive
VR(ヴァーチャル・リアリティ)世界に怪異が起きたのである。
詳しくはリンク先読んでただくとして、MoguLive編集部の記事をかいつまんで説明する。
2019年9月21~28日に「VRChat」で開催されたVR上の展示会イベント「バーチャルマーケット3(Vケット3)」にて、VTuberの鳩羽つぐさんが目撃された。
※ 鳩羽つぐYoutubeチャンネル▶https://www.youtube.com/channel/UCGaUWM5OQ7hU1JwbqvNBR4w
この情報のみで考えるならVR世界にVTuberがいること自体に、何の違和感もない。
しかし、この鳩羽さんは奇妙なことに参加者のアバターの頭上に表示されるはずの「ネームプレート」が無く、参加者一覧リストにも名前が無かった。
ネームが付いていないアバターは基本的にプログラムが動かすモブキャラのようなもので、操作する人が存在せず、「ただ居る」あるいは、「ただ規則的に動く」程度のギミックとして活用される。しかし、Vケット3における鳩羽さんは、追いかけっこをしたり、話しかけると首を傾げたりと、あたかも中に人がいる一参加者のように振る舞っていたというのだ。
尤も、この前提を踏まえたとしてもよりVR世界を楽しむために主催側が仕込んだならば、ネームプレートが非表示となり参加リストに非掲載の参加者がいても、なんら疑問はないだろう。
なんでもかんでも怪異にしてしまうのはオカルト愛好家の悪いくせである。
つまり、なんにせよ有名VTuberの凝ったギミックがいた、ということで話が終わればいいのだ。
しかし、驚くべきことにVケット3主催者はこのギミックの仕込みを否定。
これでは、インタラクティブにほのかな愛想を振りまき、現れては消えた鳩羽つぐはその場にいてはいけない存在だったことになる。
■目撃者は語る
期間中、Vケット3に参加し鳩羽さんを目撃した「怪談と技術の融合」がテーマのサークル「オカのじ」メンバー煙鳥さんはこう語る。
「その時は色々なブースを見て回ろうと、オカのじメンバーのこたろーさん、友人のこまつまつこさんと欠番街(鳩羽さんの目撃談が多かったエリア)を歩いていました。通りでネームプレートがない鳩羽さんを見かけても、『ああ、人気VTuberのギミックがいるな』という程度の認識しかありませんでした」
一同はVRの世界を楽しんだのちにログアウトした。
そして後日、こたろーさんが鳩羽さんの噂を煙鳥さんに教えた。
「『あ、それ俺、見たよ』と教えたんです。そしたら、こたさんがすごく驚いてて。てっきり、同行していたこたさんもこまっちゃんも見ていたと思ってたんですが、どうも見てなかった。いや、見えていなかったらしいんですね」
広大なVRの世界といえども、何が何だか分からないほど、視界が無限に広がっているわけではない。まだユーザー数が少ないということもあり、道すがらに居るアバターが過密で認識が困難になることもない。ましてや、VTuberのギミックが目の前にいようものなら、大概の人の目に留まる。
「3人でほぼ同じ物を目にしていたはずなのに、俺だけが見ているんですよ。これって怪談っぽくないですか?」
鳩羽さんは兼ねてから、アップされる動画のシュールな内容からネット界においても謎のVTuberとされており、可愛らしいルックスでありながら、どこか不気味な存在である。そのため考察サイトがいくつか立つほどのカルト人気を博している。
いるはずのない存在。
見える人にしか見えない謎の女性(アバター)。
確かに怪談だ。
「どうあれ、デジタルで作られた世界なのだから、仕込みにせよハッキングにせよ、誰かの作為的なものなのではないか?」と煙鳥さんに問うと、こんな答えが返ってきた。
「ええ。それはそうだと思うんです。でも、そもそもワールドを提供した『VRChat』のプログラムが謎めいている。自分たちもブースを出すために、さまざまなアイテムや仕掛けをプログラムをデザインして作ったので分かるんですが、容量の関係で作ることがあり得ないようなギミックが、このVR世界には随分多くある。そこには一般には開示されていない、ブラックボックスがあるとしか思えないんです」
鳩羽さんが見える・見えないの謎についてはこう続ける。
「参加者全員が同じ世界、同じサーバーにいるようで、実は何人かが違うサーバに置かれていた可能性がある。他のサーバーと重ねて表示されているけど、実は任意の何人かは別のプログラムで作られた似て非なる世界にいたのかもしれない。全ては妄想ですが、そんな風に考えるとより面白い。なんと言ってもブラックボックスですから」
もう一度言う。なんでもかんでもオカルト脳で判断してはいけない。ましてやデジタルの世界は人間の思いのままだ。
しかし、ブラックボックスのあるデジタル世界で、不可解なことを目の当たりにするとそれはもはや怪異である。自分の知識では起きたことを理解することができないのだ。
■仮想空間というブラックボックス
ここまで記事を書き進める中、「オカのじ」メンバーのこたろーさんとやりとりを進めたところ、さらにこんな話題がのぼった。
【ゲームの怖い話】PlayStation@Homeのぶらきゅーさんとはぴぴさん▶https://ghostmap.net/urbandetail.php?urbancd=158
PlayStation@Homeとはソニー・コンピュータエンタテインメントがPlayStation3向けに提供した仮想空間(2015年3月にサービスは終了)で、ユーザーのコミュニティとして利用されていた。
空間にはスペース、ラウンジなど公共とプライベートを分け隔てる区分けがあり、ソニーが提供するものの他に、サードパーティーのラウンジも設けられ、とにかく広大な空間をユーザーは楽しむことができた。
その中にある、とあるラウンジに「いつ来ても同じ場所で踊っている二人のアバターがいた」というのだ。
上記のリンク元には都市伝説的な怪異譚が書かれていて、こちらも興味深いが、誰もが認識できたのはあくまで謎めいた二人のアバターの存在のみ。
こたろーさんはこう語る。
「このアバターの不思議なところは、メンテナンスのためにユーザーが強制退去したあとも、復帰後、いの一番にまた同じ場所で踊っているということなんですよ。結局は誰かのユーザーログが残っただけのバグなんじゃないか、とも言われていたんですが、メーカー側がまったく修正しないし、公式の見解もなし。噂では二人のIDもあって、実際に人を介している……とも言われてました」
噂の部分はさておき、この踊る二人もまた鳩羽さんの存在と同じく、公式には認められていない存在。「バグなのではないか」以上の答えがないまま、VR都市伝説にまで発展したわけだ。
仮想空間からログアウトして、VRゴーグルを外したあなたの目の前に、もし「いてはいけない誰か」が立っていたとき、我々は現実世界にあるブラックボックスの存在を認識せざるを得ない。
VR世界は現実世界のシミュレーターである、と言っては暴論だろうか。この暴論が通るなら、VRの世界にも怪異は起こりうるのだ。
VRが一般化した時に、どんな怪談が生まれるのか。
そしてそれらを体感した我々が、現実世界の怪異をどう認識するのか、VR文化はオカルトに新たな概念を与えるかもしれない。
我々はまだ、この世界のことを何一つ分かっていないのだ。
(情報提供、協力:煙鳥 @chick_encho 、こたろー @kotarow_moo 、こまつまつこ @_matsuco)