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8/16怪談最恐戦2020大阪予選!激アツ現場レポート後編【卯ちりイベントレビュー】

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――前回の続き(前編はコチラ

8月16日、怪談最恐戦の大阪予選会が開催されました。

大阪での予選会は、3名/1ブロックのA~Cブロック、各ブロックの勝者1名が11月3日のファイナル進出となります。

今回は、発熱によりBブロックの中山功太さんが棄権となり、Bブロックは2名での戦い。大阪からは合計3名のファイナリストが決定しました。

当記事では、各出場者が語った怪談のレビューに加え、ゲスト審査員の講評 (竹内義和、ぶっちょカシワギ、小林タクオ) と、スペシャルゲストの怪談+トークも含めてレポートします!

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Cブロック

神原リカ

 最恐戦は大阪大会3年連続出場、白い服と狐のお面がトレードマークの神原さん。

 姉妹のかしましいやりとりや方言の味わい、臨場感あふれる盛り上がり、幽霊の描写など、語り口も話す怪談の展開も、正統派の魅力が備わっています。冒頭の子授け寺との因果関係は不明ながら、着物の女と姉妹の取り合わせは、女性の語り手のほうが、より自然に気味の悪さと怖さが醸し出され、映える怪談とも思います。

 着物の女の幽霊の姿そのものよりも、姉妹で恐怖した記憶のほうがより鮮明に語られる点で、とても実話怪談らしい内容でした。

ロッテンダ シャカ谷

 シャカ谷さんも3年連続の出場で、今回もしっかり念を飛ばされています。

霊感が強く敏感な人にとって、御守りがない事が、どれ程危険かがよく解る恐怖譚。出会い頭の幽霊よりも、より邪悪で忌避すべき存在に弄ばれるかのような話ですが、その存在は本気で殺しにかかるわけでもなく、誘い込んで脅すという中々いやらしいアプローチをするのは質が悪いですね。女の看護師の形をとって現れていますが、果たしてその正体が何なのか、いつから狙われていたのか、深く考察をすると厭さが増すタイプの話です。これは後日談もあれば気になるところ。

BILLY

 大阪大会最後の語り手は、昨年も出場されたBILLYさん。

 険しすぎずにこやかさのある表情、一定した語りのトーンや小気味良くまとまった話の構成など、随所に現れる配信者としての心遣いが持ち味に思えます。配信投票では1位という結果も、その強みが生きているのではないでしょうか。友人の死にまつわる、赤いもやと炎、心霊写真と遺影写真が見つからない状況。それらが相まって写真嫌いとなるわけですが、体験者の撮影した写真は予知のようにも、あるいは撮影したから友人が死んでしまったのでは、とも解釈できる不穏さに満ちています。

審査員の講評

竹内さん「シャカ谷さんとBILLYさんは空気感が近く、いい意味で焦っていて、息苦しさが怖さにつながっている。神原さんは安定した語り口で、「怪談」の構成に沿った話なので聞きやすい。このブロックもAB同様に横一線なので、どなたが選ばれても不思議じゃない状況かと思います。」

ぶっちょさん「シャカ谷さんとBILLYさんは、出てくる話の主人公を演じるコント型の口調で、神原さんは怪談の語り手の口調なのが大きな特徴です。配信と現場の評価の違いは大きいかなと感じています。配信は何かをしながら見ることが多く、現場は100%の神経で見ているので、細かい部分の口調や演出など、同調する部分が強く出る。神原さんの語り口調だと、ナマでやる表情等の機敏は配信では伝わりにくく、損じゃないかとも思うけど、でも、細かい語り口調という点で抜け出ているなと感じたので、神原さんに票を入れたいですね。」

小林さん「配信コメントを拾うと、ぶっちょさんの意見に賛同する人が多いですね。神原さんは強弱のライブ感があり、聞きやすくて気に入りました。BILLYさんは最初に屁を我慢していると言っていて、そっちが気になってしまって話が入ってこなくて(笑)。

正統派の怪談師、芸人、配信者と、最恐戦らしい語り手のバリエーションがあったのがCブロック。それゆえに、会場と配信での評価も割れました。現場と配信、それぞれの語りの使い分けについてもカオスさんから言及がありましたが、今回は現場で聴いた評価が反映され、神原リカさんが勝利!

スペシャルゲストその1・下駄華緒さん

怪談最恐戦2019優勝、「2代目・怪談最恐位」の下駄さんが登場!

怪談1話を披露し、MCのカオスさんとのトークも。

下駄さんといえば火葬場の実体験に基づく怪談でお馴染みですが、今回語ったのは、火葬炉にまつわる体験談。

炉の掃除をしていたら、ダンパーという分厚い炉の扉が勝手に締まり、バーナーを目の前に危うく閉じ込められるところだった……というヒヤリハットなエピソードですが、火葬場豆知識として好奇心を満たせる内容でありつつも、身の危険にさらされるリアルな怖さと怪異現象の気味悪さが相まった、下駄さんならではの怪談話です。女性の声が聞こえたのは気のせいかもしれないけれど、そういうふうに感じたことと、若い女性の遺体を焼いていた偶然の事実こそ、火葬場という空間での、当たり前の現実かもしれません。

住倉「下駄さんの話は、下駄さんしか知らない話ゆえに、最恐戦では勝ち上がっていきました。コンテストと、今日みたいな勝ち負けのないトークの時で、違いはありますか?」

下駄「全然違います!スベってもいいや、怖くなくてもいいやと思いながら喋っています(笑)。でもコンテストだと、怖くないとだめじゃないですか。「怖くなきゃ」が最初にあるのとないのとでは心持ちが違いますね」

住倉「この大会のキャッチコピーは、わかりやすく「一番怖い怪談を語るのは誰だ」にしているけど、怪談の魅力って、怖がりたい、だけではないはずで。そのへんはどう思います?」

下駄「自分は怪談する側で怪談も聞きまくっているので、怖さ以外をフォーカスしちゃう癖があるけれど、お客さん目線で言えば、怖さは大事なんじゃないかなとは思いますね。」

住倉「僕がいい怪談だなと思うのは、背後に生きてきた人の人生を感じたりするとき。僕が取材した話は、実際の事件や事故が多いのもあり、(怪談は自分が体験した話を語るという意味ではそれが足りないので)あえて自分では怪談師と名乗らないけれど。怪談・虎の穴をやったときに、伝える力が一番大事って話になったじゃないですか。5分以内で怖がらせるという制限では、零れ落ちているものがある気はしなくもない。コンテストに出たことによって技術の向上やチャンスが広がる利点はある一方で、コンテストだけではあれかな、と思うこともあるんだけど……」

下駄「コンテストだけではあれだけど、コンテスト以外のものって、自然とありますからね。やろうと思わないとコンテストはできないから、そういう意味で均等は取れているんじゃないでしょうか。」

スペシャルゲストその2・Apsu Shuseiさん

怪談から「零れ落ちたもの」を掬い取っているような人だなという気がしていて、とカオスさんが紹介したのは、急遽ゲストとして出演することとなった、Apsu Shuseiさん。

怖さだけが魅力ではない、Apsuさんお気に入りの怪談を披露。

Apsu「中山さんの代わりに、僕が怖い話を用意しなきゃいけないんじゃないかとひやひやしたんですが、僕は、怪談において「怖い」だけに特化することをつねに危惧しています。「怖い」もひとつの基準としてわかりやすいし面白いと思います。でも、怪談の魅力ってそれだけじゃなくて、たくさんの零れ落ちた数々の怪談を拾い上げないと、お客さんが怪談を蒐集する私たちに対して話すときに「すいません、怖くない怪談なんですけど」と語られちゃうんです。全然、怖くなくて良いんです。怪談は怖いだけじゃなくて、不思議なこと、不可思議なこと、そういったものをみんなで語り合ってみんなで楽しむっていうのが、元々あったものやから。僕的には、怪談ていうのは、怖いだけじゃないというのを広く皆さんにわかっていただきたいなと思って。

私は、絶対に怖い話はしません。OKOWAで講義をやった時も言いましたが、怪談は怖いだけじゃない。怖いだけを求めている怪談は、いつか怪談師たちの身を削ることになりますから。それ「だけ」を求めてるお客さんや主催者は、私は認めないですけどね。だけど今回はこうやって、お楽しみとして、怖い怪談じゃないものも、楽しんでいただければなと思います。

「怖くない怪談」として紹介したのは、オチアイさんという方が怪談会で語ってくれたお話。

鴨川沿いに落ちていた、桜の蕾がついた一本の枝。「もしかしたら、咲きたいんじゃないか」

という思いに駆られて持ち帰ったその枝に宿る、桜の精霊との交流と別れ……と説明すると、なんともロマンチックな話ですが、蕾のか弱さ、彼女の言葉、精霊らしき幼い子供の振る舞いなど、まるで小説を味わうかのような繊細な描写で、「怖くない怪談」と呼ぶに相応しい美しさをたたえているように思えます。そして、カップルが疑似的に子供を持つ状況にも似ている故に、精霊が消えるのはどこか痛々しく、哀しみを感じる話でもあります。

住倉「怖くない話といいつつも、切ないというか、ひとの思いが詰まった話ですけども。」

Apsu「個人的には、ここで終わらせたいんですけども、去年、久しぶりに体験者のオチアイ君と遊んだときに「実はあのときに彼女がいたから話せなかったけど、別れたから話すよ」と。あのとき話した内容は、彼女が抱いた印象の話で、オチアイさん自身は、気配は感じていたけど不気味に思っていた。彼女が言うような、雰囲気の良さは一切感じず、部屋の雰囲気がどんどん悪くなっているのに気付いていた。「僕、桜の咲いた部分、怖くなってもぎ取ったんです。彼女がだんだん桜に魅入られておかしくなるんじゃないかと思って怖かったんですよ」って。……もぉぉぉいい話だったのに!最後にそんな印象を与えるなんて、ずるいなぁ~と。」

住倉「怖い話、してるじゃん」

Apsu「ひとによって、怖い話についての印象は変わるし、体験者によって怖くもなるしいい話になったりもするんですよね。今回の大会は怖さを基準にしているけど、怖さを抜きにしてもいい怪談っていっぱいあったじゃないですか。怪談を広めるためには怖さを求めるのは大事だけど、皆さんは怖さだけじゃなくて、いろんな怪談があることを知っていただければいいなと思います。ありがとうございました。」

審査結果と最後の講評

竹内さん「ブロック分けが違っていたら、評価も変わっていた気がします。そのくらい選び難く、けっこう悩みました。特にAブロックは激戦すぎた気もするし、稲森さんの落ち着いた語り口や南湖さんの講談ならではの語り口は、怪談の質を高めるには非常に大きな力になっているなと思いました。今回、怖さにポイントを置いたのはコンテストゆえ。怪談は幅の広いものなので、出場者の幅の広さは、イベントとして楽しませていただきました。」

ぶっちょさん「一人だけを選ぶかたちなので、接戦で0か100になってしまいます。ちょっとの差で選ばれない、ということなので、結果は気にしなくて良いです。今回は初めて稲森さんの語りを聞きましたが、知らなかったジャンルの語り口で、まだまだ面白いものがあるんだなあと思いました。上から目線にはなりますが、伸びしろのある方が多いので。怪談特有の筋肉って総合格闘技っぽいところがあるんですが、これに対応した練習をするだけで、どんどん面白くなる。面白い話をする人のところに、面白い話が寄ってくるので、1年後にはまた違う結果が出るのではないでしょうか。勝った人も負けた人も、これからも怪談を続けていただければなと思います。

ちなみに、5分の使い方としては、田中さんが一番うまかった。田中さんってとぼけた天然キャラのくせに、めちゃくちゃ構成力あるんですよ。怪談の組み立てがうまい人なので、皆さん、キャラに騙されちゃダメですよ!」

住倉「そうそう、なんで制限時間を難しい5分に設定してるかというと、難しくすることによって構成力の上手い人が残り、差がつくようにという狙いですからね」

小林さん「まさか、僕だけ入れた人が違うという。(笑)でも僅差だったので、どれも悩んでつけた点数です。皆さん、自信を持っていただければと思います。来年も楽しみにしています!

まとめた人

卯ちり

実話怪談の蒐集を2019年より開始。怪談最恐戦2019東京予選会にて、怪談師としてデビュー。怪談マンスリーコンテスト2020年1月期に「親孝行」で最恐賞受賞。

アーカイブ

8月30日までアーカイブでご覧になれます(有料¥2000)

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