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音楽と怪談、不思議スポット淡路島の話【下駄華緒さんロングインタビュー後編】

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本年1月に行われた、日本で一番恐い怪談を語る人物を決める大会――怪談最恐戦。この日本一の怪談コンテストにおいて2019年度の怪談最恐位に輝いたのが、〈送り人ミュージシャン〉として怪談界に彗星のごとく現れた下駄華緒である。ロックバンド「ぼくたちのいるところ。」のベーシストでありながら、元火葬場・葬儀屋職員という異例の経歴をもつ彼は、雑誌・本当にあった愉快な話のコミック連載「最期の火を灯す者」原作、WEB連載「下駄華緒の弔い人奇譚」、自身のYouTube対談番組「創生」など、2020年に諸処で目覚しい活躍をしている。

今回は、このノリにノッテいる送り人ミュージシャンにロングインタビューを敢行。下駄華緒という人物は何者なのか、怪談や音楽について、そして培った職業観・死生観などについてじっくりと掘り下げる。

聞き手は、下駄華緒と同じ怪談最恐戦2019出場者の卯ちりさん。

(前編はコチラ

「僕みたいなやつがええんちゃう?」

卯ちり(以下、略)―ところで、下駄さんはバンドマンでもあり、火葬場職員以外の顔をお持ちですよね。下駄さんがメンバーの「ぼくたちのいるところ。」の曲は、アラサーの身としては、聴いていてグッときます……!

下駄華緒(以下、略) 「ぼくたちのいるところ。」は、それくらいの年代の方が喜ぶのを目指したのはありますね。メジャーデビューしているから10代に向けて作らなきゃ、というのはありますが、でもそこは自分らの好きなことをやろうと思って。

ベーシスト・下駄華緒

―20代の頃はプラプラしていた、というお話も(Twitterのつぶやきで)お聞きしましたが!

 僕、元々音楽が大好きで、音楽にすがっていた部分もあるんです。音楽があれば生きていけんちゃう? 死んでもええんちゃう? って。プラプラ生きていた分、死ぬことに対して考えることが多かったのかもしれないですね。ほんまにこのまま死ぬかもしれんなあって。

 それで、「死」というものについて考えたときに、僕みたいなやつが扱った方がええんちゃう? と思って。「死」は穢れ、忌み嫌われるものという考え方ですよね。先人の知恵で、遺体の雑菌や細菌がうつるから触らない方がいいということを宗教的な観点で穢れと呼んでいるのはわかる。でもそれを誰かが扱わなきゃいけないと考えた時に、僕みたいなやつがええんちゃう? って。 別に、失うものは何もないしなって(笑)

―なんとも、身軽な考え方ですね。

 忌み嫌われている職種だとは、自分では思っていないですけど、もしも周りがそう思っていて、働く人がおらんかったら、じゃあ働いてみようか、みたいな。

音楽と怪談は似ている

―音楽を心から愛する下駄さんにお聞きしたいのですが、音楽と怪談、似ているところはありますか?

 ありますね。音楽なら曲がいい、怪談なら語りがいいとか、それぞれ評価があるけれど、「この人がこれをやるのが面白い」っていう、個人の人柄が大きく影響するところ。

 例えば、バンド活動でもいろんなことをやっている上で音楽をやっている人、僕は好きなんですよ。バラエティに富んだ経験をしている人の音楽は厚みがあるところ、怪談も似ている気がする。いろんなことをやっている上で怪談もやっている人の話が、個人的には惹かれます。そういう人の話は、気づきもあり怖さもあり、お得感があって好きですね。別に怪談だけ、音楽だけをやっている人があかんよってわけじゃなくて、それはそれで突き抜けた鋭さがあって面白い。そんなところに共通点を感じますね。

―では、仲の良い怪談師はいらっしゃいますか?

 実は僕、あんまり個人的にご飯食べに行ったり飲みに行ったりとかしないんですよ。僕は結構根暗なんで、サークルみたいな付き合いはしていなくて、だから仲の悪い怪談師もいない。

―出演されている時は、いつも和気藹々としていますよね。

 本番はいつも楽しくしているし、怪談イベントで怪談話すと、そこで燃え尽きちゃう。いい話聞いたし、こっちもいい話したし、じゃあ後は家に帰ってご飯食べて寝よう、みたいな。

 だから、「イベントで仲良く楽しそうにしている下駄さん」っていうのは、ほんまに嘘偽りないんですよ。舞台で仲良さそうにしているけど楽屋入ったら全然仲良くないとか、僕はきらいなんで。

最恐戦の楽屋。田中俊行さんと
小森さん、石野さんと。後ろに田中さん

―たしかに、私が怪談最恐戦のスタッフとして楽屋にお邪魔した際に、楽屋にいらっしゃる下駄さんは本番同様に和気藹々としていました。田中俊行さんや石野桜子さんと一緒の、ほのぼのした写真が撮れましたし……。

 おちゅーん組に関しては、怪談以外のこともやっているので、話題が多いというのもあります。例えば僕と田中俊行さんだったら、楽屋で不倫の話とか、全然関係ない話してるんですよ。だから怪談イベントの楽屋で、怪談師さんたちが本番以外も怪談の話をいっぱいしていて、びっくりする。(笑)

―雑談の中のひとつに怪談があるという感じですね。

 そうですよ。面白い話は面白いから好き!

最恐戦のあとの酒席(左から匠平さん、悠遠かなたさん、田中さん、下駄さん)

淡路島は知られざるパワースポット

―話は変わりますが、好きな映画について、怖い話を語るにあたり、影響を受けた作品なんかもお伺いしたいです。

 怖い映画で好きなのは『危険な遊び』※1。子供の頃のマコーレー・カルキンが悪役で、殺人鬼なんですよ。親戚の男の子が、こいつ俺のこと殺そうとしてるってマコーレー・カルキンのお母さんに訴えるんだけど、最初はお母さんも信じてなくて、でもだんだんお母さんも、息子がほんまに殺そうとしてることに気付き始める。思ってもいなかったところにそういうのが潜んでたっていう、サスペンスホラーです。

 あとはベタに『ミザリー』※2も好きですね。バンドしている時も、ミザリーみたいな人には会わんように気をつけなあかん、って心に刻みながらやっていました。

―今後の活動予定、オープンを控えているお店についても教えてください。淡路島にお店を開こうとしたきっかけは?

 2年ほど前に、「島に行きたい」とふと夜に思い立って、フェリーで淡路島に行ったんです。でも、島に到着したら夜8時で、真っ暗なんですよ。なんもないなぁってフラフラしていたら、明かりがついてる旅館を見つけた。その旅館のおばあちゃんに、「すんません、泊まらせてください」ってお願いしたら、「今日は営業してないんやけど、泊まっていいよ」って。で、そのおばあちゃんが食べる予定だった晩御飯を一緒に食べた。

―ただの押しかけでは⁉︎(笑)

 それで、淡路島ってめっちゃええところやなぁと思ったんです。僕はずっと大阪、都会に住んでいたから、そういうのってあんまりないじゃないですか。淡路島だと車もゆずり合うし、ストレスのなさを感じます。

 そんなわけで、今は僕も淡路島に住んでいますが、「淡路島いいところだよ」っていう気持ちを込めて、店をやろうかなと。

下駄さんが開くカフェ&バー トカイ

 ちなみに、淡路島って、日本神話のイザナギとイザナミの国生みの伝説で、一番初めに作った島なんですよ。淡路島の伊弉諾神宮(いざなぎじんぐう)には日時計があって、冬至と夏至の日の、日の出・日の入りの影の角度を計っていくと、伊勢神宮や出雲大社、日本各地の有力な神社と、全部線で繋がるそうです。伊弉諾神宮の神主さんが偶然それを発見したらしく、何故そうなのかはわからないけれども、きっと、何かありますよね。そういうのも含めて、面白い島やなぁと思っています。

境内にある図  ⒸMIXTRIBE CC BY 2.0

―淡路島、まるで大草原の中に住んでいるようなイメージが湧きますが……。

 島にはもちろん市街地がありますが、僕はちょっと離れたところに住んでいます。車を運転していたら、普通に牛の匂いはします。牛小屋はあちこちにあるので。あと猪豚も多いですね。

―面白い場所にお店を作ったんですね!

 自分がほんまに好きな場所にお店を作って、「淡路島、いいでしょ」って言いたいがためのお店です!

店の内装を手掛ける下駄さん

 今回はカフェバーのお店ですけど、うまいこと回れば、2軒目、3軒目を同じ区画に出したいなとも考えていて、怪談バー、音楽バーとか、そういうのをやっていきたいなと思います。

―夢が広がりますね。ありがとうございました! 

――(了)

※1 かわいい子役二人が演じるおぞましい伝説のカルトムービー。当時「ホーム・アローン」で人気絶頂だったマコーレー・カルキンがファンのイメージを裏切って子供の殺人鬼を演じたサスペンスホラー映画。のちに「ロード・オブ・ザ・リング」でスターになるイライジャ・ウッドが共演。1993年20世紀フォックス。

※2 スティーヴン・キングの同名小説の映画化作品。アニー役でアカデミー主演女優賞を受賞したキャシー・ベイツの“怪演”が見どころ。1990年日本ヘラルド映画。

話した人:下駄華緒

2018年、バンド「ぼくたちのいるところ。」のベーシストとしてユニバーサルミュージックよりデビュー。前職の火葬場職員、葬儀屋の経験を生かし怪談師としても全国を駆け回る。怪談最恐戦2019怪談最恐位。「下駄華緒の弔い人奇譚」連載中。

聞いた人:卯ちり

実話怪談の蒐集を2019年より開始。怪談最恐戦2019東京予選会にて、怪談師としてデビュー。怪談マンスリーコンテスト2020年1月期に「親孝行」で最恐賞受賞。ブックレビュワーとしても活躍中。

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