岩井志麻子×徳光正行「凶鳴対談」の文庫未収録エピソードを特別公開!【後編】
4月27日に刊行されました『凶鳴怪談』(岩井志麻子×徳光正行)
巻末に掲載した二人の「凶鳴対談」から、文庫未収録エピソードを特別に公開いたします。
怖くて、深くて、面白い、岩井×徳光がおくるデンジャラスな極怖キャッチボールをお楽しみください。(前編はコチラ)
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目次
はこをくれ
岩井 もうひとつZさんから聞いた話で、Zさんは確か愛媛県出身なんですよ。
ご実家がお店をやっておられたそうで、地方でのんびりとした商売で近所周りの人がようやってきておしゃべりしていったり、あと近所周りの人がよくね、「段ボール箱ちょうだい」ってやってくるんですって。
徳光 うんうん。
岩井 「ああいいですよ」って、きたらバックヤードっていうか裏にいって、「こんなもんでいいですか」ってミカン箱とか段ボール箱をもってきてお客さんにあげてたと。
あるとき、近所のおばあちゃんが、「ねえねえ、箱がないんだわあ、箱がなくて困ってるんだわあ、箱ないかねえ、箱、箱ー」っていう。
Zさんが「どのくらいの?」って訊いたら、「うーん、大きいの」みたいなことをおばあちゃんがいうから、「ちょっとまってて」ってバックヤードにいって、けっこう大きめのをもってきても、「うーんそれじゃあないんだわあ」と。
で、もうちょっと大きいのをもってきても、「うーん」てなことを繰り返したのち、戻ってきたらおばあちゃんいなくなっちゃってたんだって。ありゃ、あきらめて別のお店にもらいにいったのかなとZさんは思った。
徳光 うん。
岩井 ところがね、そのうち回覧板みたいのが回ってきて、そのおばあちゃんが亡くなりましたと。
「えっえっえっ、うちきたよ」ってなったんだけど、なんとね、べつに伝染病とか事故とかでもないんだけれど、そのころたまたま町内で立て続けに3~4人のご老人が亡くなったんだと、なんの関連もないんだけど。
徳光 たまたまね。
岩井 それで町内には葬儀屋が1軒あるんだけど、なんと棺桶が足りなくて。
徳光 なるほど、なるほど。
岩井 棺桶が足りなくって、だからそのおばあちゃん、待たされてるっていうか…。
徳光 自分の入る分の棺桶を。
岩井 そう。
死体のまんま棺桶がないっていうことで、布団の上に安置されたままだったらしいのよ。
だから、棺桶探しにきたのかなって。
徳光 なるほど、「ちょっと私の分だけ足りてない」と。
岩井 「足りないんだよ、箱がないんだよ」って。
徳光 4人死んじゃって、3人分で売り切れになってるってことですね。
岩井 っていうことがあったっていうんですけど。これも幽霊っちゃ幽霊なんだけど。
徳光 まあそうですよね。
岩井 なんか妙にふつうに会話してるんよね、この場合は。
幽霊は「いるよ」
徳光 しかし、心霊写真はフィルムからデジカメになって圧倒的に減りましたよね。
逆にデジカメになっていま出てる心霊写真のほうが信憑性高いんじゃないかなって思う。
ま、加工技術があるからどうにでもいじれるんですけど、その場でパって撮って見せてもらってこれちょっとヘンじゃない?っていうのこそ、ホントになんか歪みが生んだ、もしかしたら幽霊じゃなくて時空が歪んで、たまたまなんかさサッと入り込んできちゃったのかなとも思えるし。
岩井 そういえば、さり気に気がつかんかったらホンマになんでもないものだったシリーズでいうとね、出版社Kの私の担当のYくんっていうのが、若い男性ですけど、彼が高校生のころになんか幽霊の声とか録れないかなあって男3人くらいで録音装置もって近所の大きな墓地にいったんですって。
そんときはホントに男3人でいったと。
で、岩井さんこれ聞いてください、録ってありますと。
でね、「ガヤガヤガヤガヤ…。ねえ幽霊いるかな? いねえよそんなもん。あ、あれ人魂ちがう? あれはただの明かりだろ」みたいなどうでもいい会話が入ってて、で、「幽霊なんかやっぱりいねえよな」っていったときに、女の子の声で「いるよ」って。
明るい声で女の子が「いるよ」っていってんですよ。
でもそれね、ふつうに聞いてたらグループのなかに女の子がいて、その女の子がしゃべったとしか思えないくらい自然なのよ。
だけどYくんがいうには、女はいなかったんですよって。
男3人で、そんとき周りにはとにかく女はいなかったんです!って。
これ幽霊の声なんですっていうんだけど、ホントに明るい「いるよ」っていう声が。
幽霊っていわれんと分からんがな、みたいなね。
結局答えが出ない
岩井 一方で単純に見間違い、勘違いなんかで「幽霊見たんだ、幽霊見たんだ」っていうふうになる場合もあるんだよね。
徳光 高速道路でそういうことがあるっていいますよね。
光の加減で対向車線の光の隙間に人間っぽい影が見えたりするっていうのをぼくは聞いたことあります。
一時、東名高速でこの区間で幽霊が見える見えるって噂になった場所があったんです。
それを実際に検証したら、光の加減で、例えば標識なんかに、パッと光が当たった時に人間のような形に見えるっていう。
実際ほら、高速道路とかなんて人がたくさん死んでるじゃないですか。
で、その近くで交通事故死した人がいるってなると、まずその噂に洗脳されて、光の加減でなにかが見えるようになるって聞いたことありますけど。
岩井 しかしいまになっても答えが出ないんですよねー、幽霊がいるかいないかっていうことに関しては…。
――(了)
話した人
岩井志麻子 Shimako Iwai
岡山県生まれ。1999年、短編「ぼっけえ、きょうてえ」で第6回日本ホラー小説大賞を受賞。同作を収録した短篇集『ぼっけえ、きょうてえ』で第13回山本周五郎賞を受賞。怪談実話集としての著書に「現代百物語」シリーズ、『忌まわ昔』など。共著に『女之怪談 実話系ホラーアンソロジー』『怪談五色 死相』など。
徳光正行 Masayuki Tokumitsu
神奈川県茅ケ崎市生まれ。テレビ、ラジオ、イベントの司会などで活躍しながら二世タレントとしての地位を築く。大の実話怪談好き。著書に『伝説になった男~三沢光晴という人』、「怪談手帖」シリーズ、『冥界恐怖譚 鳥肌』他、共著に『FKB怪談幽戯』など。