黄泉つなぎ百物語 第一夜「子捨て家」つくね乱蔵
幼い頃から、後藤さんはずっと同じ町で生活している。
今でこそ、マンションや商業施設が林立する町だが、昔は田畑の方が目立つ農村であった。腕白小僧だった後藤さんは、仲間と共に野原を駆け回って遊んでいた。
森や林、池や川など子供たちだけでは危険な場所も多かったが、特に何か注意されるようなことは無かった。
ただ一つ、絶対に近づいてはならないと戒められている場所があった。
森の側に建つ空き家である。持ち主は分かっている。表札にある通り、川井という一家だ。
妻に先立たれた夫が、男手ひとつで二人の子供を育てていた。
ある日を境に子供が次々と死に、ただ一人残った父親も引っ越していった。
それ以来、この家に子供が入ると、必ず行方不明になる。それが嫌なら絶対に入るなと言われていた。
そこまで脅かされたら、殆どの子供達は近づこうともしない。
けれども、都会から転校してきた荻山は違った。荻山は、蛮勇を振るうことを何よりも愛していた。
そんな子供にとって、川井家は格好の舞台だ。皆が反対すればするほど、荻山は意固地になった。
おまえらに本当の男を見せてやる。そう言い残し、荻山は川井家に入っていった。
どうするか相談する後藤さん達を見て、通りすがりの大人が駆け寄ってきた。事情を聞くと、顔色を変えて家に入っていった。
荻山が家に入ってから、五、六分程度だ。が、荻山の姿はどこにも無かった。
裏口や窓から出た様子は無い。蜘蛛の巣や埃がそのままである。
結局、荻山は見つからなかった。当時は大騒ぎになったらしい。
長い年月を経て村は町になり、すっかり様子は変わったが、川井家だけは相変わらずそのままだ。
後藤さんが知る限り、行方不明になった子供は三人。それでも川井家は解体されずに残っている。
時折、川井の血縁者らしき老婆が訪れ、数時間過ごすためである。
その間、家の中から子供達の泣き声が聞こえてくるという。
―つくね乱蔵「子捨て家」―