【日々怪談】2021年8月11日の怖い話~ニキビ
【今日は何の日?】8月11日: ガンバレの日
ニキビ
ある日、小林さんの腹に出来物ができた。最初はただのニキビだろうと思って放っておいたが、だんだん腫れが酷くなってくる。痛みも強くなった。
とうとうベルトを締められないほどになってきた。
患部を触ってみると、発熱している。
――これは結構膿んでるなぁ。
指先に力を込めて潰せば、血と膿が飛び散るだろうと予想できた。
そうやって風呂で膿と血を絞り出した後で、抗生物質入りの軟膏でも塗り付けてやれば良いだろう。それとも、これは切るべきだろうか。
小林さんは覚悟を決め、服を脱いでユニットバスで患部を摘んだ。ズキっとした痛みが走る。それと同時に、中にごりっとした塊があるのを感じた。
ニキビの芯だろうか。
それにしても大きい。そして堅い。小石が入っているみたいだ。
暫くは目に涙を浮かべながら患部を潰そう潰そうと頑張ったが、一向に埒が明かなかった。力を掛ける度に息が止まる。
これは潰すよりも切るべきだ。
小林さんは部屋まで戻ると、机の中に入っていたニッパーを取り出した。ユニットバスに戻る。
麻酔などない。
ニッパーで患部を挟み、取っ手を握った手に、恐る恐る力を入れていく。痛みが患部に走った。さらに力を掛ける。肉を挟むニッパーの刃に力が伝わった。増していく痛みに歯を食いしばる。目を瞑って一気に握りしめた。
ぶちり。
切れた。
その瞬間、痛みで瞼の裏に光が弾けた。ぼろぼろと大粒の涙が出た。あまりの痛さに小便を漏らしそうだった。だが、何故か後悔の念はなかった。
断ち切った患部から、黒っぽい血と黄色い膿の混じった液体が、もこりもこりと盛り上がっては下腹部に赤く筋を描いていく。
指先を這わす。ずきんずきんと痛む患部の奥に、まだ小石のようにごつごつとした塊がある。
指先で患部をほじる。塊が中で動いた。
指先を血で濡らしながら、その塊を掘り起こした。中から出てきたものは、マッチ棒の頭ぐらいの白くて小さな塊だった。
「何だこれ」
思わず声が出た。
塊をシャワーで洗うと、それは目鼻立ちもくっきりとした仏像の頭だった。
――「ニキビ」神沼三平太『恐怖箱 百聞』より
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