【日々怪談】2021年8月21日の怖い話~向こうの女

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【今日は何の日?】8月21日: イージーパンツの日

向こうの女

 コンビニでのバイトの帰り道に必ず渡る横断歩道がある。
 その日も、歩道で信号待ちをしていた。
〈おやっ〉
 道路を挟んだ対面の歩道で信号待ちする女性の身体のバランスに違和感を覚えた。
 こちらを向いて直立しているのだが、右足が付け根からごっそりないように見える。
 何分、薄暗い夕方であることに輪をかけて、広い幅員のある幹線道路である。見間違いかもしれない。目を細めてじっと見てみるも杖を突いているようにも見えない。格好は白いブラウスにタイトなチェック柄のパンツと至って普通だが、右足だけが見当たらない。
 片足がないまま立っていることを除けば、着目する点は一つもない。
 歩行者信号が青に変わった。
〈おやおやっ〉
 女は片足のまま、歩いてくる。
 左足がないのに、右足を置いたまま身体をわずかに前方に出し、次に右足を出す。
 見えない片足を使って歩いている具合だ。
 すれ違うまで目を離さずにその様子を確認し、すれ違ってからも振り向いて目で追った。
 どうやら、自分に女の片足が見えていないだけのようだ。

 一週間を過ぎた頃、同じ場所で信号待ちする女を再び見かけた。
 今度はしっかり両足があった。
 しかし、松葉杖を突いていた。

――「向こうの女」高田公太『恐怖箱 百舌』より

#ヒビカイ # イージーパンツの日

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