【日々怪談】2021年2月14日の怖い話~バレンタインデー
バレンタインデー
「バレンタインデーに、手作りチョコレートのおまじないってあったじゃないですか」
田淵さんはそういうと、同僚の女性が体験した話を教えてくれた。
もう十年以上前のことになる。
彼女はバレンタインデーに渡すチョコの中に、混ぜ物をするというおまじないをした。
ネタ元は、中学の頃に雑誌で読んだ他愛のない記事ではあったが、もしそれで相手を射止められるなら安いものだ。物は試しと、記事の記憶を頼りに、親指の爪に相手の名前をマジックで書くと、それを削ってチョコに混ぜた。
バレンタインデーの当日、そのチョコを相手に渡して帰宅したが、その夜から削った親指の爪の調子がおかしくなった。心当たりもないのに次第に紫色に変色してグラグラし始め、ついには爪が取れてしまった。
それを発端として体調が急に悪化し、一週間ほど高熱が続いた。
久しぶりに会社に出ると、チョコをあげた男性の様子が妙によそよそしい。
気になったので、友達を通じて相手の状況を探ると、相手には既に歳上の彼女がいて、結婚を迫られているということが分かった。
ひと月後のホワイトデーのことである。
「次やったら殺すって」
そう言われた。お返しとして粉々に砕けたロリポップが戻ってきた。
その後すぐに男は会社を辞め、今どうしているかは分からない。
しかし、その同僚女性の親指の爪は、それから十年ほど経った今でも元通りにはならないのだという。
――「バレンタインデー」神沼三平太『恐怖箱 百舌』より