【日々怪談】2021年2月20日の怖い話~ おかえり
【今日は何の日?】2月20日:夫婦円満の日、交通事故死ゼロを目指す日
おかえり
「お祓いしたほうがいいんじゃないか……」
「いや。お前に俺らの気持ちは分からないんだ。息子が帰ってきてるんだ。嬉しいじゃないか。なぁ、お前」
嫁は亭主の言葉に力強く頷いた。
大島の同僚、加藤が一人息子を交通事故で亡くした。
葬儀を終えたのち、加藤が会社に復帰するまで、二月掛かった。
姿を見せた加藤は、思いの外元気そうに見えた。
尤も、周囲に気を遣わせないように気丈に振る舞っている可能性もある。
事が事だけにほとぼりが冷めることもなかろう。入社が同期の仲間を腫れ物のように扱ってばかりもいられない。
「もし良かったら今度、線香でも上げに行っていいかい……」
そう提案すると、加藤は二つ返事で大島を歓迎した。
居間で出された茶を飲みながら世間話をしている最中のことだった。
がらり、と勢いよく玄関戸が開く音がした。
続けて、子供の声。
タダイマ……イタイヨウ……。
声から間髪入れる間もなく、ゆっくり廊下を歩む音が居間へ近付いてくる。
「おかえり!」
「おかえり!」
夫婦は満面の笑みで廊下に声を掛けた。
足音は居間に到着することはなく、いつしか消えていた。
――「おかえり」高田公太『恐怖箱 百眼』より