【日々怪談】2021年2月22日の怖い話~ 掘り炬燵/俊足
【今日は何の日?】2月22日:猫の日、忍者の日
目次
掘り炬燵
天城さんには木野さんという友人がいる。大学以来の友人で、もう二十年近い付き合いだ。
二人は家が近いこともあって、普段からお互いの家を行き来している。だが冬場は天城さんが木野さん宅に入り浸りである。掘り炬燵が快適だからだ。
その日も天城さんは手土産片手に木野さん宅を訪れ、掘り炬燵に入ってのんびりとしていた。
木野さんも雑誌を読んでいたが、同居している父親に呼ばれて中座した。
すると、何処からか猫が現れた。柄はキジトラ。目が印象的な緑である。
猫は掘り炬燵に入りたがる素振りを見せた。
炬燵布団を捲り上げると、猫は尻を振って掘り炬燵の中に飛び込んでいった。
足のポジションを決めるために、足先でゆっくり炬燵の中の猫を探る。だが炬燵の中の何処にもいない。炬燵布団を捲って中を改めてみたが、やはりいない。
向こう側から這い出して、炬燵布団で寝ているのかと見回してみても姿が見えない。
そうこうしているうちに、木野さんが帰ってきた。
「猫さ、そっちに行った?」
訊ねると、変な顔をする。
「うちに猫なんていないぞ」
何を言っているんだという顔をして言った。
「そうか」
納得のいかない顔をしていると、
「お袋がぜんざい作ったから食うかって」
「あ、いただく」
「んじゃ持ってくるわ」
再び木野さんは席を外した。すると何処からか先ほどの猫が姿を現した。にゃおと小さく鳴いて、布団を捲れと催促する。その催促に負けて布団を持ち上げると、猫は再び炬燵に飛び込んだ。
盆にぜんざいの椀を載せて戻ってきた木野さんに、
「猫、またいたぜ。悪い、ちょっとトイレ」
と告げ、天城さんは席を立った。
「猫さ、いたわ」
トイレから戻った天城さんに、木野さんが言った。
「お前さんが連れてきたんだわ」
木野さんは天城さんの足下を指さした。
ズボンの裾に猫の毛がびっしり付いていた。
それ以来、冬場には木野さんの掘り炬燵には見えない猫が居着いている。
――「掘り炬燵」神沼三平太『恐怖箱 百舌 』より
俊足
新幹線の窓から外を眺めていると、何かが新幹線と同じ速度で並走して走っている。
いや、まさか。
最初は自分の目を信じられず、別のものではないかと考えながら観察を続けた。
――あれ、やっぱり人、だよな
目を疑い、何度も確認したが、何処まで行ってもその人影は付いてくる。
黒い服を着ている。覆面をしている。
忍者だった。
岐阜県から滋賀県に入った辺りでの目撃談である。
――「俊足」神沼三平太『 恐怖箱 百舌 』より