【日々怪談】2021年2月24日の怖い話~ メンコ
【今日は何の日?】2月24日:月光仮面登場の日
メンコ
大輔君が小学校の四年生のときのことである。
近所に余り流行っていない駄菓子屋があった。
子供から見ても商売熱心ではなく、しかも店主が子供好きという訳でもなさそうだった。
いつもくたびれた感じのおばさんが、だるそうに店番をしていた。
店の雰囲気が悪いので、大輔君も友達も、普段はわざわざ自転車で別の駄菓子屋に行っていた。
だがその日、大輔君はふらりとその駄菓子屋に行き、おばさんの隙を盗んでメンコを一枚万引きした。計画的なものではない。出来心だった。盗んだのは四角いメンコで、特撮ヒーローの図柄だった。
そのメンコは、べらぼうに強かった。
負け無し、なんてものではなかった。公園で友達のメンコを根こそぎ取ってしまう程だ。
メンコ入れとして使っているクッキーの缶が、すぐに一杯になった。
友達の賞賛と怨嗟の混じった視線が心地よかった。
その夜のことである。大輔君は友達とメンコをする夢を見た。
舞台は夜の河原だった。真っ暗な中に蝋燭が灯っている。遠くから川のせせらぎが聞こえてくる。
ぱちん。
ぺちん。
友達と交互にメンコを打ち付け合う。無言で黙々と勝負を続ける。大輔君の手にしているのは、あのメンコだった。
夢の中でもそのメンコは無類に強かった。
だが何故か、勝つ度に周囲の蝋燭が一本ずつ消えていく。勝ち続けるのと裏腹に、次第に心細くなっていった。
そうして最後の蝋燭が消える直前に目が覚めた。
布団を跳ね除けると、急いで学習机の上の缶を開け、中のメンコを確認する。
件のメンコは片面の半分が真っ黒に変わり、図柄も火で炙ったかのようにボロボロになっていた。
驚いた大輔君はその日の放課後、すぐ駄菓子屋に謝りに行った。
店番のおばさんは、やってきた大輔君を見るなり、
「おばちゃんね。全部知ってたよ。あんたが謝りに来なかったら家が火事になるところだったね」
と言った。大輔君は泣きながら謝ったという。
――「メンコ」神沼三平太『 恐怖箱 百聞 』より