【日々怪談】2021年2月27日の怖い話~ 雪獣

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【今日は何の日?】2月27日: 国際ホッキョクグマの日

雪獣

 昭和三十年代の新潟県の山間での話。
 笹田さんは雪下ろしの最中に足を滑らせた。雪に腕を突こうとしたが、そのまま屋根から滑り落ち、気絶してしまった。
 気付くと視界が真っ白だ。雪に埋まってしまったのだろう。
 手足を振り回そうとした。片足にずきんと強い痛みが走った。足の下に堅い物があるのも分かった。スコップだった。
 合点がいった。落ちた際にスコップの上に足を打ち付けたのだろう。
 冷静になって自分の状況を見ると、急角度のすり鉢状になった穴の底に埋まっていることが分かった。
 声を上げて、腕で必死に雪を掻いたが、壁になった雪が崩れ、余計に頭の上に落ちてくるばかりだった。周囲に誰かいる気配もない。
 音もなく雪が降ってきて頭上に積もっていく。
 ――このままだと埋まる。
 気ばかり焦った。
 再び大声を上げたが、誰も助けに来てくれそうにない。
 周囲がどんどん暗くなってきた。
 夜だ。雪の降りも激しくなってきた。
 そのとき何かが歩き回る音が聞こえた。
 人ではない。大きな獣だ。
 耳を澄ます。それが次第に近付いてくるのが分かった。
 熊か?
 血の気が引いた。熊だとすると、銃を持たない人間には手も足も出せない。冬眠から覚めて、人里まで降りてきているということは、腹を空かせている可能性が高い。
 頭から食われるかもしれない。
 絶望感が襲ってきた。
 足音はゆっくり近付いてくる。
 くんくん鼻を鳴らしている音まで聞こえる。
 姿が見えない恐怖に笹田さんが震えていると、自分の頭のすぐ上で鼻を鳴らす音がする。
 雪がのし掛かるように崩れてきた。
 南無三と思って目を瞑っていると、突然強い力で肩を掴まれた。
 目を開いたが、自分の肩を掴んでいるはずの獣の姿は何処にも見えない。
 笹田さんは、不意にずぼりと雪から引き上げられた。
 唖然としていると、気配はそのまま何処かへと去っていった。
 雪に埋まった笹田さんのスコップが掘り出されたのは、春になってからのことである。

――「雪獣」神沼三平太『 恐怖箱 百聞』より

#ヒビカイ #国際ホッキョクグマの日

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