【日々怪談】2021年3月22日の怖い話~ 噴水
【今日は何の日?】3月22日:世界水の日
噴水
境さんが大学生に入った直後の話である。新歓コンパの帰りに、池袋の公園で酔いを覚ましていた。春の夜だが寒くはなかった。寧ろ良い風が吹いて気持ちよかった。
すると不意にトイレの手水場のほうから水音が聞こえてきた。その音がいつまで経っても止まない。誰か蛇口を開きっ放しにしていったのだろう。
周囲には誰もいない。
境さんは舌打ちして立ち上がると、水を止めようとトイレのほうに歩いていった。
トイレの入り口の白い街灯の光の中に、二メートル近い身長の細い中年男性が、斜めに立ったまま頭を壁にくっつけていた。角度からして身体全体を頭で支えている。
街灯に照らされているが、男の周りだけ色がなかった。白黒だ。頭は坊主刈りである。
男はダボッとした厚手の生地の長袖を着ている。
激しい水音はトイレの水道でないと気付いた。その男から聞こえる。
怖かったが、どうなっているのかを確かめようと、横に回り込んで男を見上げた。
男の口と両目が激しく水を噴射していた。その音がびちゃびちゃと響いていたのだった。
――「噴水」神沼三平太『恐怖箱 百舌』より