【日々怪談】2021年3月24日の怖い話~ しきたり

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【今日は何の日?】3月24日:ホスピタリティ・デー

しきたり

 三河さんの実家にはある〈しきたり〉があった。
 その〈しきたり〉は、三河家に訪問者があっても、父以外の家人は玄関へ応対に出てはいけないというものだった。
 三河さんの父はその筋では高名な陶芸家で、ほぼ毎日、家か離れにある作業場にいたので、このいかにも不便そうな〈しきたり〉は誰が不平をいうこともなく守られていたそうだ。
 呼び鈴が鳴ったら、父を呼べばいい。父が不在の場合はあからさまな居留守を使う。それだけのことだった。
 玄関戸には一日中鍵が掛けられていた。
 物心が付いてから常日頃疑問を感じていた三河さんは、ある日この〈しきたり〉の所以について、父に訊いた。
「ねえ。何で、ママとかあたしが出ちゃダメなの?」
「ああ。今度教えてあげるよ」

 昼下がり、家の呼び鈴が鳴った。
「おいで」
 父に呼ばれて、玄関まで付いていった。
「はぁい。今、開けます」
 父はそう言いながら、鍵を開けカラカラと玄関戸を引いた。
 外には見知らぬ和装の女が立っていた。
「よく見ててごらん」
 女は何も言わず、首をゆっくりと数回縦に振った。
 すると、父はどうぞ、と手を家の中に向けてかざした。
 女は玄関から一歩屋内へ足を踏み出すと同時に、シュッと萎み、消えた。

「うちはたまにこういうのが来るんだ。こんなのの相手をするのはパパだけで十分だよ」 
 多分ここを通りたいんだろう、と父は続けて説明した。

――「 しきたり 」高田公太『恐怖箱 百眼』より

#ヒビカイ #ホスピタリティ・デー

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