【日々怪談】2021年4月8日の怖い話~ タイヤ
【今日は何の日?】4月8日: タイヤの日
タイヤ
「稀に変なものを見るんですよ」
根津さんは、業務で都内から名古屋辺りまで運転することがある。時には中央道を使うこともあるが、大体は東名高速を使う。
その日は昼を回ってから名古屋まで行くことになっていた。
会社を出る時間が少し遅くなってしまったこともあって、いつもより気が急いていた。
首都高から東名高速に乗って多摩川を越えた辺りのことである。
走行車線を走っていると、すぐ脇の路肩を、てんてんてんと跳ねながら転がっているタイヤを見かけた。
総毛立った。タイヤを巻き込んで、俺の後ろで絶対事故が起きる――その確信に血の気が引いた。
高速道路上とあって速度もかなり出ている。もし事故が起きたら周囲もただでは済まない。テレビのニュースで見かけた事故の場面と、サービスエリアに貼ってあるポスターが、頭の中でグルグルと回った。
せめて俺だけは事故に巻き込まれまい。そう思ってアクセルを踏むが、前方が詰まっていてスピードも出せない。前方の車を煽るようにして走る。
三十秒は経っただろうか。
そろそろ大丈夫か?
バックミラーを覗くと、後続車が一台もいなかった。
そしてバックミラーの中には、一本だけで自立し、転がるタイヤの姿があった。
タイヤは根津さんの車の後ろを追いかけるようにコロコロ転がり続け、ついには静岡県の途中まで付いてきた。
その間、後続車には一台も抜かされることもなかったという。
――「 タイヤ」神沼三平太『恐怖箱 百聞』より