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【日々怪談】2021年3月15日の怖い話~ ぎんなん小僧

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【今日は何の日?】3月15日:靴の記念日

ぎんなん小僧

 小宮さんが小学校四年生の秋のことである。
 彼女の通学路には銀杏の大木があり、周囲にはぎんなんが落ちていた。黄色く丸い実が道や排水溝の蓋の上に二個三個と固まって転がっている。幾つかは自動車のタイヤに潰されて、地面ににじられた跡を残し、独特の臭気を放っていた。
 小宮さんは、この時期その道を通るのが嫌だった。通学路だから仕方ないのだが、ぎんなんを踏むと靴に臭気が移る。通りを満たす排泄物にも似た臭いに憂鬱な気分になった。
 通り過ぎようと急いでいる間に、いつの間にか踏んでしまったらしく、うっすらとあの臭いが漂ってきた。きっと学校で何か言われる。そんな未来が予想されて嫌だった。
 学校に着いて、下駄箱で靴を履き替えている間に、同じクラスの山下という男子が案の定小宮さんのことをからかった。
「くせーぞ臭いぞ、ぎんなん女~!」
 予想されていたとはいえショックだった。ぽろぽろ涙を流してしまった。それを見てばつが悪くなったのか、山下はそのまま教室に走って逃げていった。
 だが、その日はずっと男子にぎんなん女とからかわれ、鬱々とした気持ちで一日を過ごした。帰りの会でも話題にされ、男子達は一応神妙な顔をしていたが、小宮さんの気分が晴れるようなものではなかった。
 翌日。小宮さんは再びその通学路を憂鬱な気持ちで通り抜けようとした。今度は注意深く、落ち葉に隠れているぎんなんも踏まないようにと気を遣いながら歩いていく。
 だが、足下を見ると、自分の右足の踵の少し後ろに、いつも同じぎんなんが固まって落ちているのに気付いた。大振りの黄色いものが三つ連なり、その中央の実に小振りのぎんなんが二つ、くっついている。見ようによっては外国の雪だるまのようにも見えた。
 それが自分の足下に付いてきている。銀杏の大木を過ぎてもまだ足下にある。糸のようなもので引きずっている訳でもない。ただ、不思議と気持ち悪いとは思わなかった。
 学校の下駄箱で上履きに履き替え、廊下を歩いている間も、その五粒のぎんなんは小宮さんの足下から離れなかった。
 だが、教室に入った瞬間に、それは足下から散り、昨日小山さんをからかっていじめた山下達、男子の机の中に飛び込んだ。
 結果、教室は彼らの机からの臭気で一日中ぎんなん臭く、いじめた男子達はぎんなんの実を拾ってくるものではないと先生に注意を受けたという。

――「ぎんなん小僧」神沼三平太『恐怖箱 百眼』より

#ヒビカイ #靴の記念日

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