【日々怪談】2021年5月11日の怖い話~ダッシュ侍
【今日は何の日?】5月11日:ご当地キャラの日
ダッシュ武者
「ここ、夜になるとダッシュする武者姿の幽霊が出るんだよ。こないだも視たし」
観光地の駅前である。左手に伸びた駅前商店街を眺めながら、当たり前のように進藤が言った。……え。今、こないだも視たって言ったか?
「武者姿って、落ち武者?」
「そう。でも落ち武者じゃなくて、〈落ちていない〉武者」
最近は落ち武者の霊の目撃例が減っているという話を聞いたことがあった。そのときは霊の寿命は七百年だという話だった。もちろん眉唾である。しかしまさかの展開だ。進藤に幽霊が視えるとは知らなかった。視える人なら早く言ってくれよ。
武者がダッシュするという商店街を歩き始めて、先程の発言で気になった点を訊ねた。
「さっきさ、〈落ちてない〉って言ったけど、何それ」
「落ちてないんだよ。攻める側だから。丸に太い横線が一本」
進藤は空中に家紋を描いた。
納得した。鎌倉には新田義貞の鎌倉攻めの記憶がまだ残っているのだろう。
――「ダッシュ武者」神沼三平太『恐怖箱 百眼』より
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