【日々怪談】2021年5月17日の怖い話~強制終了
【今日は何の日?】5月17日:世界電気通信および情報社会の日
強制終了
その晩、麻生はずっとネットをしていた。
ぼんやりとブラウザを眺めているうちに、真夜中になってしまった。
『今夜は夜半すぎに雷をともなった雨が降るでしょう』
そういえば、テレビの天気予報はそんなことを言っていた気がする。
どこか遠くでゴロゴロと雷鳴が響いている。
しばらく顔を出さなかったチャット仲間は、ネットをやってる最中に近所に雷が落ちて、雷撃でルータもパソコンも全部「焼き切れた」とか言ってた。
〈雷サージ対策してないんだよなあ……〉
そのうちやろういつかやろうと思って先送りしていたので、まだ手を打っていない。
逡巡しているうちに、雷鳴と稲妻の間隔はどんどん短くなってきた。
――カッ!
――ドガッ!
稲妻で窓の外がホワイトアウトする。
ほぼ同時に雷鳴が響き渡った。
「やべっ!」
麻生は、反射的にパソコン用電源タップのコンセントを、壁から引き抜いた。
コンセント経由で落雷のダメージが伝わる過電流を恐れての措置である。
落雷に対して電源遮断で対抗……というのは、対処としては間違いではない。
が、だからといって雷が落ちてからでは遅いのである。素早くコンセントを引っこ抜いたところで人間技が充分な効果を発揮するとは思えない。むしろ、強制終了のほうがOSにダメージを与えそうだ。
その直後、停電も来た。
「うひー、あぶねーところだった……」
停電で部屋は真っ暗に……なるはずなのだが、ひとつだけ光源が残っている。
モニターが落ちない。
モニターはパソコンと同じ電源タップに差し込んで連動させてあった。コンセントを抜いた時点ですでに通電していないはずなのだが、煌々と光っている。
「あれぇ?」
と、モニターを覗き込んだ。
掌が映り込んでいる。
慌てて自分の掌を見る。
違う。俺のじゃない。
その掌は、モニターのガラスの内側から、ぺたりと押し付けられていた。
麻生の絶叫は、闇と雷鳴にかき消された。
――「強制終了」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ 』より
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