【日々怪談】2021年5月21日の怖い話~ボール
【今日は何の日?】5月21日:小学校開校の日
ボール
夕暮れ時の小学校の校庭。
へいちゃんのボールで草野球をした。
へいちゃんは何にでも名前を書く奴だ。持ってきたボールにもマジックで名前が書いてある。
「平蔵」
なくすと叱られるから、だそうだ。
ピッチャー、振りかぶって第一球を投げた。
バッター、ジャストミート!
バットを振り抜くとボールはセンターに向かって飛んだ。
センターを守っていたへいちゃんは、ボールを追いかけ怒鳴りながら走っていった。
「馬鹿野郎! 強く打ちすぎだ!」
「しょうがないじゃん。金属バットだもん」
ボールを探している間にバッターはベースを一周してホームを踏んだ。
「いえーい、ホームラン!」
が、校庭の遙か反対側まで探してもボールは見つからない。
焦れた次のバッターが叫んだ。
「まだかよー。ボール、それ一個しかないんだぜ」
ライト、レフトと、外野が総出で探しているのだが見つからない。
このままじゃ続きができないということで、へいちゃんはボール探しのために外野から相手チームに大声で呼びかけた。
「おーい! ボールがないぞ! 探すの手伝え!」
と、そのとき。
バッターボックスに立っていた同級生の後ろに、ボールが落ちてきた。
ぽとん。ぽんぽん……ぽん。
ボールは二~三度軽く跳ねて、バッターの足下にコロコロと転がる。
拾い上げられたボールには〈平蔵〉と書いてあった。
――「ボール」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ― 』より
#ヒビカイ # 小学校開校の日