【日々怪談】2021年6月3日の怖い話~斜め
【今日は何の日?】6月3日:世界自転車デー
斜め
夏の夕方のことである。大通りで信号が変わるのを待っていると、その通りを挟んだ交差点の向こうから、中年男性が自転車を漕いで走ってきた。所謂ママチャリである。
男性は小太りで、ランニングシャツにチェック柄の七分丈のズボン。野球のキャップを被っている。
緩い感じの空気を纏った地元下町のおっちゃんという風情である。
しかし、彼の乗る自転車は、奇妙な走り方をしていた。
ずっと直線の道を走っているのに、車体が道路面に対して斜め四十五度に傾いている。
自転車が、そのままスピードを上げつつ大通りに向かって走ってくる。男性の足はペダルをぐるぐる回している。意外な高ケイデンスである。
信号が赤なのにブレーキを掛ける素振りがない。
「おっちゃん、危ない!」
自動車は車が猛スピードで行き交う大通りに、そのまま突っ込んで消えた。
声が届いたかどうかは分からない。
――「 斜め」加藤一『恐怖箱 百眼』より